君の名は。SS スパークルMVif 夏恋⑧

チャイムが鳴ったと思ったら、それから立て続けに部屋に鳴り響く。
「三葉!三葉ぁー!ちゃんとおるよねー!!」
更にドンドンとドアを叩く音。

もうっ、サヤちんってば慌て過ぎだって!

「今、開けるから、少し待ってて」
カギを開けた途端、勢いよくドアが開いた。
「三葉っ!!ちょっとどうしたんよ!?何かあった……」
そこまで言い掛けて、サヤちんは私の顔を見て押し黙った。
「ごめんね、心配かけて。ちょっとね、色々あったんよ」
さ、入って、と笑顔を作り、彼女を部屋に招き入れる。

あの時、親友からの電話に、私は思わず助けを求めてしまった。
私が悪いのに。瀧くんに嫌われて当然のことをしてしまったんだから。
彼があんなに怒るのは仕方ないこと。だから、これからどうするか、どうしたいのか、ちゃんと自分で考えなくちゃ。
こんなこと、親友に相談することじゃ、
「三葉ぁ!!」
怒りの込もったその声に私は振り返る。親友は玄関先に立ったまま。
「どうしたの?早く入りない。あ、そうやった!この前買ったお菓子があるんよ。これが結構美味しくてな」

笑顔、笑顔。親友に心配かける訳にはいかないから。

「あ……んたねぇ……!」
適当に靴を脱ぐや、サヤちんは床を踏みしめるようにこちらに向かってくる。
「だ、だから、心配いらないんやって」
ほら、口角を上げて、笑顔を作れば……
「あんた!それで笑っとるつもりなん!!!そんな目、真っ赤にして、ぎこちない笑い方して、そんなに私のこと信用できんのっ!!!」
「そ、そんなこと!……で、でも、これは私が全部悪くて!!」
宮水三葉っ!!!」
彼女の大声に、私は驚いて身体が固まる。そんな私の肩にサヤちんはそっと手を置いた。
「……私は、三葉の役には立たないかもしれない。だけどね、親友が泣きたい時くらいは、いくらでも傍にいてあげるから」
いつもみたいに全てを包み込んでくれるような、彼女の優しい声と微笑み。

ごめんね……サヤちん。
私、いつも、いつも、サヤちんの優しさに助けてもらってばかり。
だけど……

「ちょっと……泣いても、ええかな?」
「好きなだけ、泣いたらええんやさ……」

彼女の胸に額をつけると、抑え込んでいた涙が堰を切って、そのまま私は大声で泣いた。
言いたいこと、謝りたいこと、嫌われてしまって哀しいこと、それでも……彼が大好きなこと。
泣きながら、ただ言いたいことを言ってる私。きっとサヤちんは意味がわからないと思う。
だけど、親友はただ、うん、うん、とだけ頷いて、泣き続ける私をずっと抱きしめてくれていた……


夏恋⑧ 答えの先に見えるもの。


サヤちんが代わりに淹れてくれたハーブティー。差し出しされたカップを受け取る。
「少しは落ち着いた?」
「うん……」
小さく頷きながら私はカップに口をつける。ハーブの香りせいか、泣くだけ泣いて親友に胸の内を伝えたせいか、今は少し気持ちがリラックスしている。
「ごめんね……サヤちん」
「そこは『ごめん』やなくて、『ありがとう』やろ?」
「うん……ありがとう、サヤちん」
よろしい、そう言って彼女は微笑んだ。

「彼……その瀧くんって子は、三葉がずっと探してきた人ってことでええんよね?」
「うん。四年前に出逢って、それからずっと……」
「あ……もしかして彗星の頃?」
サヤちんにも思い当たる節があるだろう。あの入れ替わりの日々は、私をよく知ってる人たちにしてみれば、私に何かあったと思わせるには十分だった。
「うん、その頃、瀧くんと出逢ったんだ。……結局、色々あってお別れしなくちゃならなかったんだけど、お互い、またぜったい逢えるって信じて。それでやっと逢えた」

入れ替わりのことは言わない方がいいと思った。私達が一度死んだなんてこと、きっと知らない方がいいと思うから……
親友に全てを打ち明けられない申し訳なさを感じながらも、サヤちんは必要以上のことは聞いてこなかった。それはきっと彼女の優しさと、私の事を信用してくれてるからなんだと……思う。
「だったら、どうして?逢えたのにどうして、こんな……」
「瀧くんね、私のこと、覚えてなかったんだ」
「え……?」
「ううん、正確には私と出逢ったことを覚えてなかったんよ。だけどね、もう一度逢いたいってその微かな想いだけで私を見つけてくれた」

あの時、四ツ谷駅前。瀧くんの言葉で振り返った自分に、決して後悔なんてしてない。

「覚えてなかったことは哀しかったけど、それでも私を見つけてくれたことは本当に嬉しかった。だから、このまま思い出さなくてもいいって思ってた……。瀧くんは瀧くんだから」
「彼は、記憶喪失みたいな感じなん?」
「ううん、そういうんじゃないと思う。彼は何も変わってないの。ただ、彼と私の間にあった事を全部失ってる……そんな感じかな」
口にして思う。私と瀧くんの間にあると思ってたものは、もしかして何も残っていないんじゃないかって。だけど、そんなこと考えたくもなくて、ただティーカップに視線を落とした。
「ツラい、ね。だけど、それならその失くしてるもんを、三葉が彼に伝えるのも……」
そう言い掛けたサヤちんは言葉をつぐんだ。それはきっと、私が何とも言えない表情をしていたからだと思う。

「宮水……」
「え?」
「宮水のおかげでね、私、瀧くんに出逢えたの。でもね、同時に宮水が、瀧くんを苦しめたの。だから、もしそのことで彼に嫌われたらと思うと言えなかった……」
震え、掠れた自分の声が弱々しくて。私はまた俯いてしまう。
「……もういいよ、それ以上は」
サヤちんは私の隣に近寄ると背中に手を当てる。
詳細を語れない中、サヤちんは察してくれた。どんなことがあろうと、私は『宮水』三葉。それがわかってるから、彼女は言葉を遮ろうとしてくれる。
だけど……
「ううん。決めたの。彼に、瀧くんに全部言うって。覚えてなくても、嫌われちゃっても、やっぱり瀧くんのこと"好き"だから……。だから全部言わくなちゃいけない、そう思うの」
「……そっか」
「だけどね……私、瀧くんに言われちゃったんよ。『誰かの代わりですか?』って。私、阿呆やよね、そんなつもりなかったけど、無意識で、思い出の中の彼と、今の瀧くん、重ねてみてた。彼に言われてそのことに気づいた。……瀧くんが怒るの当然だよね」
嬉しそうに笑ったり、照れて首の後ろに手を当てる彼の姿を思い出そうとするけど、今はあの時の寂しそうな表情が脳裏に焼き付いて離れない。
どうして私は瀧くんに苦しい思いばかりさせてしまうんだろう。瀧くんのことが好きなのに。大好きなはずなのに、自分の想いを真っ直ぐに彼に伝えることができなかった……
「……まだ整理ついとらんの?」
「うん……今のまま全部言ってもきっとダメなんやと思う。けど、すぐにでも瀧くんに謝りたい。瀧くんのことが"好き"だってこと、それだけは誤解されたくないの!」

「なあ、三葉……」
私の背中をさすりながら彼女の優しい声。
「昔、三葉言っとったやない?恋をするのに権利なんかいらないって」
「うん……」
「誰かが、人を好きなるのに、やっぱり理由とか権利なんていらないんよ。ちゃんと誠心誠意、自分の気持ちを伝えることが大切なんやないかな?」
「サヤちん……」
「今、三葉は彼に謝りたいんやろ?」
「うん……謝りたい」
だったら、と彼女は笑顔で横から覗き込んでくる。
「まずは謝ろ?そこからひとつずつ。それでも、また泣きたくなったら、いつでも私のこと呼べばええんやさ」
「でも……」
「"でも"やない。そんな親友の存在意義なくすような遠慮するんやったら、逆にええ迷惑なんやからね!……それに逆の立場なら、絶対同じことするやろ?」
当然だ。サヤちんは私の大事な大事な親友なんだから。
コクンと頷く前に表情でわかってくれたのか、私は背中を力強く叩かれた。
「宮水神社の巫女様が失恋なんて言ったら、神社復興した後、『縁結びのお守り』売れなくなってまうで。ほら、しっかりしない!」
「……なんか、サヤちん、昔よりずーっと強くなった気がする」
「恋のことやったら、三葉より先輩やからね♪」
ウィンクしながらそう言った親友の表情は、大人びて見えて。
いつも隣にいる存在だったのに。そんな彼女の心の強さに、私は羨ましさと、そんな風になりたいなという憧れのようなものを感じていた。

*   *   *

「ええと……」
翌日の昼過ぎ、サヤちんと別れ、私はスマフォと手帳を手に目的地を目指していた。
昨日の夕立なんて嘘みたいに、真夏の陽射しが東京の街を照らし続ける。グングン上昇する気温のせいか、巨大なビル群が陽炎の中に揺らめいて見える。

「私も一緒に行こうか?」
そう言ってくれた親友に、私は静かに首を振った。
「ううん、私がやらなくちゃいけないと思う。あ、遠慮しとるんやないよ、パワーいっぱいもらったよ!本当の本当!」
謝るなら直接会った方がいいと思った。だから、私は瀧くんの家に行ってみることにした。昨日みたいに怒られないようにと、最後にサヤちんに念を押すと彼女は笑い出す。
「わかっとるって。昨日と全然表情違うもんな」
安心した、そう続けた言葉のトーンにいつもと変わらない親友の優しさを感じて、感謝で胸がいっぱいになる。
「サヤちんのおかげやさ」
「そう思うなら、今度カフェで奢ってな♪」
「もちろんやよ!」

そうして駅の改札を抜ける。ここで彼女とはお別れ。
「なあ、三葉」
「なに?」
「その瀧くんって子な、きっと三葉のこと、大好きなんやと思うよ」
「え……?」
「好きやから、取られたくなかったんやないかな。三葉が重ねていたっていう昔の彼に」
「そう、なのかな……?」
「なんとなく、その子の気持ち、わからなくもないでね」
意味深な台詞を残して、サヤちんは、またね、と手を振る。
私に付き合って一泊してくれた親友。今度会う時はもう少し元気な姿が見せられるといいな……

 

「ここだ……」
手帳を開く。住所と部屋の番号。そして表札には『立花』の文字。間違いない。
一度深呼吸をすると、緊張で震えながらチャイムを押す。
と、ゆっくりとした足音が近づいてきた。
瀧くん、いるんだ……
そう思って身構えていると、
「はい、どちら……さま?」
瀧くんのお父さんが顔を出した。
「あ、お久しぶりです」
思わず、頭を下げる。
「ええと……どこかでお会いしたこと、ありましたかな?」

あ、そうだった、瀧くんのお父さんは私のこと知らないんだよね。

「あ、すみませんっ!私、宮水三葉と申します。あの、その瀧くんと……」
お付き合いしてますって言いたかったけど、ちょっと憚れて口をつぐんでしまう。
「もしかして、瀧の彼女……とか?」
「あ、はい……一応、そんな感じです。すみません」
なぜかまた謝ってしまった。
瀧くんのお父さんは驚いた様子で、ドアに手を掛けたまま暫くこちらを見ていた。
「あ、あの……瀧くん、いらっしゃいますか?」
「ああ、これはすみませんな。ええっと、瀧の奴なんですけど……ちょっと熱出してまして」

え……?熱?
それって昨日……夕立の中……

「た、瀧くん!大丈夫なんですかっ!?熱ってどれくらい!?まさか入院とか!?あ……す、すみません……」
ふ、不覚。瀧くんのお父さんの前で取り乱してしまった……
だけど、お父さんは私の言葉にも動じることなく微笑んでくれた。
「ただの風邪だそうです。医者で貰った薬を飲んで、ゆっくり休んでいれば大丈夫みたいですよ」
「そうですか……良かったぁ」
その言葉にホッとして肩から余計な力が抜ける。
「顔、見ていきますか?」
「え?」
「風邪を引いてる人間の側にっていうのは、あんまりいいことではないんでしょうが、あいつにとって、あなたがお見舞いに来てくれることは何よりの薬になりそうだ」
「そんな……」
「さあ、どうぞ」
できれば瀧くんの顔が見たい。だから促されるまま、私は瀧くんの家にお邪魔した。


お父さんに案内されながら、久しぶりに瀧くんの家の中を見る。あの頃と殆ど変わってない。入れ替わってた頃から一年くらいしか経ってないもんね。
「おーい、瀧ー?」
お父さんが部屋を軽くノックするけど、反応はない。
「入るぞー」
静かにドアを開ける。瀧くんの部屋はカーテンを閉め切っていて薄暗い。エアコンで室温を調整してるみたいで、室外機の音が耳に響いた。
お父さんはベッドで横になっている瀧くんの顔を覗き込むと、こちらに振り返った。
「すみませんね。薬が効いて寝てるようで」
「ゆっくり寝かせてあげてください。すぐに帰りますので」
「折角いらしたんだ、飲み物くらいご用意しますよ。準備ができたら呼びますので」
多くは語らずに、瀧くんのお父さんは私の横を通り、リビングへと向かった。
私は一人、瀧くんの部屋に取り残される。

「瀧くん……」
ゆっくりとベッドに近づくと、眠っている彼の顔を見る。うなされているように荒い呼吸。瀧くん苦しそう……
「瀧くん……ごめんね」
額に手を当てる。とても熱い。
きっと夕立で濡れてしまったから。全部、私のせいだ……

「ごめんね、ごめんね……」

それでも早く治って欲しいと、額に触れる手に想いを込める。

「……早く良くなって」

と、さっきまで苦しそうだった呼吸が少し落ち着いてきて、ホッとしたような表情に変わると、スゥースゥーと静かな寝息に変わる。


私は瀧くんを起こさないようにそっと部屋を出た。リビングに向かうと、瀧くんのお父さんがテーブルの上に飲み物とお菓子の用意をしている最中だった。
「もう、いいのかな?」
「あ、はい。……あの、すみません。急に手ぶらでお邪魔して」
「いえいえ、またいらしてください。来て頂いたことは瀧の奴に伝えときますんで」
「えっと、それは……」
私の反応に、瀧くんのお父さんの手が止まる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ……」
「……ああ、瀧の奴、何かしでかしましたかねぇ?」
苦笑混じりで、どうぞ、と対面の席に促される。一礼すると私はいつもは瀧くんが座っているその席に腰掛けた。

「いえ、悪いのは私の方で。その……今日、本当は瀧くんに謝るためにお邪魔したんです」
すみませんと頭を下げると、瀧くんのお父さんは、目を見開いた後、はははっと笑い出した。
「あの……可笑しかったですか?」
「いえいえ、すみません。何があったのかはわかりませんが、あなただけが悪いってこともないのかな、と思いまして」
「そんなこと……」
「ウチの奴とは、いつ頃から付き合いを?」
「先月の七月からです。……受験の大切な時期なのにすみません」
「そうですか……」
瀧くんのお父さんはそう言うと、私の顔を暫く見つめる。
「どうかされましたか?」
「あ、いえ、瀧にこんな美人で可愛い彼女がいたことに、改めて驚いておりまして」
「え?えぇっ!?」
顔が火照って思わず頬に手を当てる。

「あいつ、ここ最近、めっきり明るくなりましてね。きっとあなたのおかげですな」
お父さんの言葉に思わず俯く。それはちょっと前までは瀧くんは元気がなかったということ。きっと私を探し続けて、心が彷徨っていたから……
「本当にすみません……」
「……宮水さんでしたか?」
「あ、はい」
「あなたは謝ってばかりですな」
「え?あ、すみません」
「ほら、また」
「あ……」
瀧くんのお父さんは眼鏡の奥の優しい瞳のまま、私に微笑んだ。
「あなたは自分に真面目なんですなぁ。あ、初対面なのにこれは失礼」
「自分に真面目……ですか?」
「ええ、何となくそんな気が」
「いえ……そういうところ、あるかもしれません」

その言葉に糸守にいた頃のことが思い出される。
宮水家の長女として、周りの目を気にし、背筋を伸ばし、気を張って生活していた日々。
そうだった。あれを壊してくれたのが、自分らしく生きろよと背中を押してくれたのが瀧くんだった。

「ですが、その分、あなたの言葉にはどこか誠意を感じる。あなたは先ほど、ウチの奴の受験のことを気にしてくれましたが、受験なんてどうでもいいんですよ」
「え?」
「まあ、どうでもいいってこともないんでしょうが、それでも受験は失敗したら、またやり直せばいい。だけどね、人との出会いは一期一会だ。"縁"ってのはそういうもんでしょう?」
「"縁"ですか……」
「ええ。今、ウチの奴とお付き合い頂いてるのも何かの"縁"だと思いますよ。だから、気になさらないで下さい」
「……ありがとうございます」
さあ、どうぞと飲み物とお菓子を勧められて、麦茶が注がれたグラスを手に取った。
「瀧の奴、あなたを困らせてませんか?」
「え?あ、いや、そんなこと……」
「ハハハッ、失礼。確かにこれは答えにくい」
「そんなことないです!瀧くんといると本当に嬉しくて……楽しくさせてもらってます」
「そうですか。それなら良かった。これからも瀧のこと、お願いします」
「あ、いえ、こちらこそ不束者ですが、どうか末永く宜しくお願いします!」
勢いよく頭を下げて、ふと思う。今の挨拶ちょっと変だった気がする……
恐る恐る顔を上げて瀧くんのお父さんの顔を見る。そこにはあの頃と変わらない優しい笑顔。
入れ替わりで一緒に過ごしていた日々が思い出される。そうだ、瀧くんのために、もしさせてもらえるなら!
「あ、あのっ!」
「はい?」
「瀧くんに何か食べられそうなもの、作ってあげたいんですけど」
思わず椅子から立ち上がる。
「お願いします!!」

*   *   *

夕方、一人暮らしの自宅に戻る。昨日は久しぶりにサヤちんが泊まってくれたせいか、今日は何となく部屋が広く、そして寂しく感じる。
「ただいま」
返事がないのもわかってるけど、それでも独り呟いた。
「ふぅ……」
トートバッグをいつもの定位置に置くと、エアコンのスイッチを入れる。
まさか、瀧くんが風邪を引いていて、瀧くんのお父さんがいるとは思ってもみなかった。
ふと気づく。瀧くん、お父さんが出張なんて言ってたけど、あれは瀧くんなりの必死な嘘で……
スマフォを手に取る。瀧くんからの着信は……ない。
「風邪引いてるんだから、当たり前だよね……」
嫌われてないって思いたくて、自分を励ますように口にする。

なんだか色々と疲れちゃった……
ベッドに横になって目を瞑る。静かな部屋、エアコンから届く冷風が心地いい。
瀧くん、風邪大丈夫かな?熱は下がったかな……
元気になって、ちゃんと食べられるようになってくれてたらいいな……
そんなことを考えているうちに、身体が重くなって、私はまどろみの中に落ちていった。


夢を見る。
いつもの夢。カタワレ時。沈む夕日が最後の輝きを放ち、そして稜線の向こうへ消えていく……
私は振り向く。
目の前には、あの頃の、私との想い出を持った彼の姿。

「みつは……」

彼に寄り添う。
見上げるように彼の瞳を見つめる。その眼差しは、今と全然変わらなくて。
同じ瀧くんなのに、どうして私はこんなにも迷ってしまうんだろう……?

「答えは出た?」
彼の言葉に私は俯いて首を振る。
「それでもね、もう逃げないって決めたの。全部、言うって決めたの……だけど」
クスッと笑う声がして私は顔を上げた。そこにはイタズラっ子みたいな彼の笑顔。
「答えはすぐに出さなくてもいいんじゃないかな?」
「え……?」
「もう一度、向かい合ってみなよ。自分自身とそして……」
ほら、と目線が私の背後を促す。
追うように振り返った視線の先、瀧くんの背中が見えた!!

「瀧くんッ!!!」
思わず大声で叫ぶ。
気が付けば、そこは糸守の踏切。単線を挟んだあちら側とこちら側、振り返った瀧くんと私、まっすぐに見つめ合っていた……


……何か鳴ってる?
「ん……んん………」
ああ、スマフォか……これ、着信音?
ハッとして起き上がる。いつの間にか日は暮れていて、部屋の中は真っ暗。
スマフォは……どこ!?自分の周りにはない!そうだ!テーブルの上!!
暗がりのテーブルの上、スマフォが振動で揺れていた。手に取れば、ディスプレイに表示されてる『立花瀧』の文字。
瀧くん!瀧くんだ!!
「三葉ですっ!!」
何も考えずに着信ボタンを押す。
『……瀧です。遅い時間に』
「風邪、大丈夫!?熱もう下がったの!?電話しても大丈夫なの!?」
『……あ、熱はだいぶ下がりました。だいぶ楽になってます』
落ち着いた声。良かったぁ、少し良くなったみたいで。
『あと……卵雑炊、ご馳走様でした。すげー美味かったです』
「……うん、そう言ってくれて、ありがと」
思わず安堵の声をもらしてしまう。瀧くん、ちゃんと食べてくれたんだ。

と、そこで会話が途切れてしまった。
会って謝るつもりだったけど、折角、瀧くんとお話できる機会。まずは電話で、この前のこと謝ろう……

「あのね!」
『あの!』
声が重なった。
『あ、えっと……俺からいいですか?』
「え?あ、うん……いいよ」
電話の向こうで、息を吸って吐く声が聞こえた。
『本当は、会って言いたかったんですけど、今、こんな状態なんで……まずは電話で言わせて下さい』
「うん……」
『……昨日はすみませんでした。俺、自分の言いたいことだけ、三葉さんにぶつけて。三葉さんにも、きっと色々あるんだと思いますけど、それを知りもしないくせに一方的に……。言い訳するつもりはありません。ただ、三葉さんに謝りたくて……本当にごめんなさい』
瀧くんの言葉に、思わず口許を抑えてしまう。
違う!瀧くんが悪いんじゃないんだよ!
私が、君に隠してたから、逃げてたから……
何か言おうと思ったけど、すぐには口にできなくて、そのまま瀧くんの言葉が続く。
『できたら三葉さんに会って、謝りたいです。風邪治ったら、』
「待って!」

やっと声が出た。
ダメだよ……瀧くんだけが悪いんじゃないんだよ。
それなのに、そんな……自分ばっかり……

「瀧くんばっかり、ズルイよ……」
本当に私は瀧くんのことになるとすぐに涙が溢れてくる。
『泣かせて……ゴメン』
「違う!瀧くんに泣かされてるんじゃないよ。瀧くんのことだから、泣いちゃうんだよ……」
目じりを拭う。だけど、これは、きっと昨日みたいな涙じゃなくて、たぶん少し嬉しい涙。

ねえ、君に、嫌われてないって思ってもいいのかな……?
君の言葉に勇気をもらってもいいのかな?
ねえ、三葉。今くらい、自分の気持ちに素直になりたいよね?
だったら……

「私の方こそ、本当にゴメンね。私はね、瀧くんが思ってるような人じゃないんだよ。ズルイんだよ。瀧くんが知らないことをいいことに逃げてきたの。だけどね、これだけは信じて」

――私、瀧くんのこと、好きやよ

自然とそう言えた。
"好き"だって……

暫しの沈黙の後、
『三葉さん、つらいんですか?』
私を心配してくれる彼の声。瀧くんはわかってる。私自身、まだ気持ちに整理がついていないことを。
『俺じゃ力に……なれませんか?』
「いっぱい力、もらってるよ」
「けど……」

瀧くんは強くて……そして優しい。
だけど、私もいつまでも今のままじゃいられない。もう逃げたくない。
さっき自分で言った。『瀧くんのこと好き』だって。
電話越しだったけど、ちゃんと言えた。だから今度は、会って君に言いたい!
そして、その時に、私と君のこと、全部言うから……

「ねえ、瀧くん、私ね、君のことが好き。だからね、もう逃げないって決めたの。君に全部言うって決めたの。だけど、私、一人だととっても弱虫だから……だから、少し時間を下さい」
『俺も三葉さんが好きです。……だから、いくらでも待ちます。信じてますから』
まだ気持ちの整理がついてない私を、瀧くんはただ"信じる"と言ってくれる。
彼の気持ちに応えるために、私自身、本当にどうしたいのか、もう一度自分に向き合いたい。

家のカレンダーを見る。七月に再会して今は八月。そしてそれが終われば、もう九月。
そうだ、私たちにとっての一つの記念日……
「……九月二日」
『え?』
「瀧くんはわからないと思うけど、私と瀧くんが始まった日なの。だからその日、私達が出逢った場所、四ツ谷駅前に十時半。待ってるね」

私と瀧くんが初めて入れ替わった日。私達が始まった日。
もしかしたら、そこで終わってしまうのかもしれない。……だけど、言うならその日がいい。
『わかりました』
瀧くんもすぐに了解してくれた。
「その日にちゃんと言うから」
『はい』
「それじゃ、九月二日に」
九月二日、それまでにもう一度、自分自身に向き合って答えを出す。そして、ちゃんと瀧くんに……
「じゃあ、またね」
「あの!!」
電話を切ろうとした矢先、呼び止めようとする瀧くんの声。
「九月二日まで会えなくても……電話とかしたらダメですか?」

え?と思う。
……次に会うのは九月二日にしようって決めた。
だけど、電話はしても……いいのかな?
そりゃ、本当は毎日だって瀧くんとお話したいけど、だけど……

「……瀧くんの勉強の邪魔にならない?」
やっぱり本音は言えず。そんな風に言うのが精一杯で。ううぅ、私って中途半端……
それでも電話の向こう側。瀧くんのホッとしたような声。
『会えるまでは受験勉強を一番にします。ただ、』
「ただ?」
『俺、三葉さんのこと、もっと知りたいんです。好きなこととか、何気ないことでいいんです。電話でこうして無駄話するだけでいいっていうかなんというか……』

瀧くんの言葉で、ふと気づく。
入れ替わりから一年くらいしか経ってない瀧くん。あの頃から見た目がちょっと大人びたくらいだと思ってた。
だけど……本当にそう?
そもそも私、今の瀧くんのこと、本当にどれだけわかってる?

『あ!勿論、言いたくないことは言わなくてもいいです!だから!』
「いいよ」
迷わずそう言っていた。そうだ、私も瀧くんのこと、もっと知りたい。そう思った途端、胸の奥が少し高鳴る。
『本当ですか?』
「うん。私、もう一度、君とも向かい合ってみたいから。無駄話なんて言うけど、きっと無駄になんてならない気がする」
それは確信にも似た予感。とても素敵な日々が始まる気がした。

*   *   *

「砂時計?」
『はい、ウチに三分間のがありまして……。流石に三分だと短すぎて俺もイヤなんで、ひっくり返して計六分ならどうですか?』
翌日、昨日と同じ夜九時頃に瀧くんからの電話。話し始めたらきっとキリがないからと、まずは通話時間をどうしようかという話になった。
「砂時計、使ってるんだ」
『あ、いや、普段は使ってないんですけど、でも見てると不思議と落ち着くんで、たまにひっくり返して眺めてます』
「そっか……。実はね、私も持ってるんだ、青い砂の砂時計。瀧くんと同じ三分間のだよ」
『本当ですか!?ウチのも青い砂のやつです!』
きっとその砂時計は、瀧くんに入れ替わった時に自分自身で買ったもの。
逢えない瀧くんと、せめてお揃いのモノが欲しくて、自分が持っていた砂時計と似たものを買ってきた。まあ、あの時は瀧くんのお小遣いを使い込んでしまったんだけど。
スマフォを耳に当てながら、部屋に置いてあった家の砂時計を手に取り、逆さにしてみた。
あの彗星で一度失くしてしまったけど、これはまだ瀧くんを思い出す前、東京の雑貨屋で何となく気になって購入した新しい砂時計。
もしかしたら今度は似たものじゃなくて、同じ砂時計かもしれない。新しい繋がりを嬉しく感じながら、サラサラと止めどなく零れ落ちる青い砂を見つめる。
「じゃあ、毎日今くらいの時間に六分間、お話しよっか?」
『はい!楽しみにしてます』
「うん、私も」

そうして今日もまた瀧くんと電話でお話をする。
話してる内容なんて、本当にたいしたことのないこと。それでも、短い時間はあっという間に過ぎてしまう。
だから今日は何を話そうかとか、昨日の話の続きをしようかとか、ふと気づけば、毎日、瀧くんの顔を思い浮かべながら、そんなことを考えている。
それは……そう。あの入れ替わってた頃の、スマフォの日記にその日の出来事を残してた時のような、少しずつ心の扉が開いていく、そんな感じ……


『この前の卵雑炊、ありがとうございました。本当にすげー美味かったです』
「そう言ってくれると嬉しいな♪」
『なんか特別なことしてるんですか?』
「どうかなぁ?昆布と鰹節の合わせ出汁とって、普通に作っただけだと思うよ」
『成程……普通が既に手間かかってるんですね、美味しいはずです』
「でも、一番は、瀧くんに食べて貰いたかったってことかな。ほら、私、一人暮らしだから、誰かのために料理するの久しぶりで嬉しかった」
『……あの、今度は俺が料理作りますから、一緒に食べませんか?』
「え?」
『あ、いや、変な意味じゃなくて、その……卵雑炊の御礼に!』
「うん……その日を楽しみにしてるね」
そういえば、入れ替わってた時、私だけ瀧くんの出来立ての手料理、食べられなかったんだよね。
もし、そんな時が来たら、嬉しいな……


「瀧くんのお友達……えっと司くん」
『あ、はい』
「どんな感じ?」
『えっと……眼鏡かけてて、いつも淡々としてますね』
「ああ、何かドーベルマンみたいにしっかりした犬って感じがするね」
ドーベルマンっすか……』
「他にもお友達いるんでしょ?」
『あ、高木っていうガタイがいいのがいます。豪快なヤツなんですよ、この前なんて特大ハンバーグステーキ、ペロリと平らげて』
「わぁ、すごいねぇ。そうだなぁ、高木くんはおっきなクマさんって感じがするね」
『ク、クマさんですか……?』
「うん。で、瀧くんはハリネズミ♪」
『……司がドーベルマン、高木がクマ、俺は……ハリネズミ
ハリネズミ、可愛いよねぇ♪


「瀧くんは黒髪ロングの人、好きそうだよね?」
『え……』
前から気になってたこと。私の今の髪型どう思ってるんだろう……?
「好きだよね?」
『いや、そんなこと……』
「今、首の後ろ掻いてる?」
『え、なんでわかって!?』
「私……もう少し髪、伸ばした方がいいのかな?」
『いえ!今の髪型も三葉さんらしくて素敵だと思います。いや、本当に!』
「へぇ、瀧くんもそんな風に言えるようになったんだねぇ」
でも、やっぱり黒髪ロングが好きなんだろうなぁ。ちょっと伸ばしてみようかな?
電話の向こうで慌てふためいてる瀧くんの様子にクスクス笑いながら、自分の髪に触れてみた。


『電話してて改めて思ったんですけど、三葉さんって声、可愛いですよね』
「え、あ、いや、そんなこと……。それを言うなら、瀧くんの声もかなりいけてると思うよ」
『そうですかね……?自分じゃよくわからないですけど』
「だって私、瀧くんに名前呼ばれるとドキッとする時あるもん」
『三葉さん』
「う……」
『どうですか?少しはドキッと、』
「ねえ……瀧?」
『うっ……』
ふふっ、お姉さんを揶揄っちゃダメやよ♪


「あ、私の幼馴染、建築関係に詳しいんだ。お盆に会う予定だから、何か知りたいことがあったら色々聞いてみようか?」
『へぇ、女性で建築に詳しい人ですか?』
「ううん。その幼馴染は男の人やよ」
『男の人ですか……』
「うん。もう一人幼馴染の親友がいるんだけどね、その子と付き合ってるんだ。二人とも仲いいんだよ」
『あ、付き合ってる人がいるんですね』
「うん」
『良かった……』
「え?何が良かったの?」
『な、何でもないです!!次までに聞いてみたいこと考えておきます』
「わかった。きっと瀧くん、テッシーと気が合うと思うよ」


「お姉ちゃーん。お願いがあるんやけど」
お盆に実家に帰省中。今日は瀧くんと何を話そうかなって考えてたら四葉がやってきた。昨夜から瀧くんと電話してみたいってしつこいんだけど……
「ダメやからね!電話の時間、短いんやから邪魔せんでよ」
「えー!お願いー!私、一度、その瀧さんって人と、お話してみたいわ」
「だーめ」
「ケチー……って言いたいところだけど、そこは私も中学生。タダとは言わんよ?」
「あんた、何言ってんの?」
「お父さん……」
「え?」
「お父さんに瀧さん紹介する時、お姉ちゃんの味方になってあげてもええんやけどなぁ?」
「………」
「お父さん、娘の彼氏とか、ぜっったい嫌がると思うわ!」
「……今日だけだからね」
「りょーかーい♪」


「え……ちょっと瀧くん、何言っとるの!?」
『いや、きのこですって』
「普通に、たけのこの方が人気があるって、世間一般の常識やよ?」
『いや、俺が言いたいのは、人気はたけのこかもしれませんけど、美味しいのはきのこだって言ってるんですよ』
「美味しいから、たけのこの方が人気あるんでしょ!?」
『チョコとクッキーって甘いのに甘いの足したら、甘いだけじゃないですか。クラッカーがあって程よいバランスに』
「瀧くん、わかってないよ。チョコとクッキーが口の中に一緒に広がって」
『三葉さんこそ、わかってないですよ』
「瀧くん……」
『なんですか……』
「六分経っちゃった」
『じゃあ、今度食べ比べしてみませんか』
「うん♪」


「瀧くんは、建築関係の仕事に進みたいの?」
『そうですね……まだ漠然としてますけど。ただ、俺、どこか心に残ってる風景があって、建物とか自然とか、そういうのが一体になって、いつまでも心に残るというか、そんな建物や街作りをしてみたいって……。スミマセン、なんか抽象的な感じで』
「ううん、ゆっくり夢をカタチにしていけばいいと思うよ。この前言ってた大学選びも、やっぱりそういうのを基準に考えた方がいいんじゃないかな?」
『ありがとうございます。……何か嬉しいです。こういう話、他の人ともあまりしたことなくて』
「瀧くんのお父さんなら、ちゃんと聞いてくれると思うよ。もちろん、私でもよければいつでも」
『はい、お願いします』


「え?私?」
『大学卒業したら、地元に帰るんですか?』
「それはまだ……何とも言えないかな?知ってのとおり、うちの神社もまだ復興中だしね。そもそも神社を継ぐかどうかも決めかねてるんだけど」
『そうですか……』
「それがどうかしたの?」
『俺は……別に東京にはこだわってないですから』
瀧くんの言葉は嬉しい。だけどね……
「……だめやよ。瀧くんは、ちゃんと自分の夢のことだけを考えて」
『それでも、できればその夢の傍には三葉さんが居て欲しいです』
「……ありがとう」


『それじゃ、明日、四ツ谷駅に十時半、待ってます』
「うん……」
『それじゃ』
「おやすみなさい」
『おやすみ……』


夢を見る。
「目が覚めてもお互い忘れないようにさ」
彼は私の右手を取るとペンで文字を書き込む。
「名前書いておこうぜ。ほら」
そう言うとマジックペンを私に手渡そうとする。
だけど、私はそれを受け取れない。
でも、そのことに彼は驚いた様子もなく優しく微笑んでくれた。

「答えは出た?」
「うん」
「そっか……」
「この手のひらに書いてくれた言葉、私、すごく力をもらった。きっとこの言葉があったから、私は今日まで生きて来れた」
大切な宝物を包み込むように、私は左手を重ね、右手を握りしめる。
「でも、この言葉の返事はあなたにはできないの。私はあの頃の私じゃない。だから……」
「やっと……答え出たね」
「ありがとう……ごめんね」
「何言ってんだよ、俺は俺だ。……だから、未来で待ってて」
「うん……ずっと待ってる」
「最後に一つ……」


私は夢の中を駆ける。懸命に駆ける。何度転びそうになっても走り続ける。
あの日みたいに、行けなくちゃいけないところがある。
きっと、待ってる。瀧くんはぜったい待っててくれる!!

「瀧くん……」

糸守の踏切。その向こう側、瀧くんが居た。少し照れくさい気持ちを抑え込んで、彼の名を呼んだ。
私に気づいた瀧くんもまた私の名前を呼んで、向こう側から一歩踏み出してくる。
聞き違いじゃなければ、"三葉"って……
思わず、私も一歩を踏み出す。

――最後に一つ。何があっても俺は三葉のこと……


目が覚める。夢は……覚えていない。
涙は零れていない。ただ、何かを成し遂げたような、そんな気持ちで心が晴れ渡っている。

九月二日。
今日、全てを瀧くんに言う。瀧くんとの間にあった過去のこと、彗星のこと、宮水の力に巻き込んでしまったこと。そして、瀧くんが大好きだってこと……

どういう結果になるかはわからない。
嫌われてしまうのかもしれない。拒絶されてしまうのかもしれない。
でも、大丈夫。どんなことになっても、今の私はきっと大丈夫。
瀧くんとお別れすることになっても、瀧くんを好きだって気持ちまで捨てる必要ないんだから。

ベッドを降り、カーテンを思い切り開けると、飛び込んできた朝の光に目を細める。
今日はきっといい天気。
まるで心待ちにしてた彼との初デートみたいに、ドキドキとした感情で胸がいっぱいになる。
きっと、この鼓動は恥ずかしさとか緊張なんかじゃなくて、久しぶりに彼に会える嬉しさと、これからの未来を楽しみにしてるような、そんな予感めいた……

つづく