君の名は。SS スパークルMVif 夏恋おまけ話③

takeさんの素敵三葉イラストに『こっちこっち!』と言われたような気がして、気がつくと書いていたモノ(笑)

時期的には二〇一八年五月でしょうか?

楽しく書かせて頂きました(感謝)短めですが、宜しくお願いします。

 


四ツ谷駅前の交差点。目の前で点滅を始めた信号に、思わず走り抜けてしまおうかと思ったが、垣間見た腕時計が示した時刻は、まだ待ち合わせには十分早い。逸る気持ちを抑え、瀧は横断歩道の前で立ち止まった。
気がつけば桜舞う春はとうに過ぎ去り、あれだけ休みが続いたGWもあっという間に終わり五月も半ば。まだまだ夏には遠いはずだけど、この時期の東京は日によっては真夏日に近い気温まで上がる。僅かに滲んだ額の汗をハンカチで拭っていると、漸く信号が青に変わった。
足早に横断歩道を渡る。いつもならそんなことはないのに、やはり三葉に会う前は、つい早足になってしまうことを自分でも十分に自覚してる。

渡り切った向こう側。駅の改札前の待ち合わせ場所に、自分にとって一際目立つ女性が既に待っていてくれた。
黒髪に赤い組紐を揺らしながら、自身の姿を確認するかのように毛先や洋服に触れていた。
遠目からそんな三葉の様子につい見とれてしまいその場に立ちすくんでいると、不意に何かに気づいた彼女と視線がぶつかった。

「あ、瀧くーーん!」
右手を上げると、自分の存在を示すように大きく振りながら、嬉しそうに飛び跳ねる。
思わず可愛い!と思ったが、人通りの多い駅前で皆が彼女の方に視線を注いでいることに気がつき、瀧は三葉に慌てて駆け寄ると、挨拶もそこそこに彼女の腕を取り大急ぎでその場を立ち去った。

「ちょっ、瀧くん、電車に乗るんじゃないの!?」
「えーと……取り敢えず一駅くらい歩きません?」
「まあ、別に私はええけど」
瀧に腕を掴まれたまま、後を追うようについてきた三葉だったが、歩調を緩めた瀧の横に並ぶと掴んでいた手は解かれ、自然の流れで恋人つなぎに変わる。
「えへへ、瀧くん、元気だった?」
「昨日も電話したじゃないですか」
「会うのは一週間ぶりやもん。声だけじゃ瀧くんの様子わかんないし」
「俺は至って元気っす。そういう三葉は?」
「元気やよ!……と言いたいところだけど、まあ最近は結構忙しいんだよね。でもやっぱり瀧くんに会えると元気になれるかな♪」
跳ねるような声と共に、並んで歩く二人の肩が触れるくらい距離に近づく。

「三葉、嬉しそうだな」
「なによー、瀧くんは嬉しくないの?」
口をすぼめた彼女もどこか可愛らしくて。そのせいか先程の彼女の様子が思い出されて瀧は思わず吹き出してしまう。
「え、なに?なんで笑っとるの??」
「いや、三葉に会えたら勿論嬉しいですよ。それとは別に、さっきのはちょっと年上感なかったなーと思って」
可愛かったですけど、とフォローは忘れずに瀧は一言付け加えた。
「え?さっきのって?」
「こう、『瀧くーん!』って手を振って飛び跳ねてたやつ」
「あ……」
三葉は手を離すとその場に立ち止まり、両手で顔を覆った。
「うぅ、しょうがないやろー。瀧くん見つけたら嬉しくなってまって、つい……。そ、それに、駅前で大声出すのは瀧くんの方が先でしょ!私に声かけた時、『神宮高校三年!立花瀧です!!』って大声で名乗ってたやない!」
「うッ!?」
あれは忘れもしない、立花瀧、一世一代覚悟の行動であり、後悔の微塵などさらさらないのだが、こうして相手から言われてしまうととてつもなく恥ずかしい。
「スミマセン……もう言いません」
「もう……」
そう言って差し出した三葉の右手を取ると、再び二人の手が結ばれる。
再び歩き始める東京の街。普段住み慣れているはずなのに、こうして二人一緒に居るだけで、どこか特別に感じるのは何故なのだろう。

「でもさ、出逢った頃の三葉は、もっと大人でミステリアスな人だと思ってたんだよ。自分でも言うのも何だけど振り向いてもらえるように結構背伸びして頑張ったつもりですから」
「それは、色々言えないことがあったから……ね。でも、瀧くんがそんな私のこと、一生懸命想ってくれてたのは気づいてたし、本当に嬉しかったんだよ」
あのひと夏の物語を思い出しているのか、三葉は柔らかく笑みを零す。
「でもまあ、寝起きの三葉を見ると、『ああ、四葉の言うとおりだったなぁ』ってどこかホッとしましたけど」
「悪かったわねー」
「いや、悪い意味じゃなくて。ちゃんと告白してからも、色んな三葉を知る度に少しずつ俺達の距離も変わっていってさ。きっとこれからも三葉と一緒に変わっていくんだろうなって」
この春、瀧は大学生となり、いずれ三葉は社会人となる。時の流れは止まることなく進んでいくけれど、きっと二人一緒であればどんな変化であろうとやっていける。
それはあの夏を経たからこそ信じられる、決して途切れることのない二人のムスビ。

「でもね、瀧くん」
「ん?」
「どんな事があっても変わらないものもあるの。あの日、瀧くんに出逢った日からずっと変わらないもの」
「変わらないもの?」
三葉に手招きされ瀧は背を屈める。そんな瀧の耳元で三葉はそっと囁く。

――瀧くんのこと、大好きだってこと

「っ!!?」
その甘い声に思わず瀧は茹蛸のように顔を真っ赤にして口許を手で覆う。
「瀧くん、どうかしたの?」
「え、あ、いや……ありがとう、ございます」
自分の言葉の持つ魔力に気づかないまま、不思議そうに小首を傾げた三葉に、瀧は思わずため息を吐く。

年上で可愛い、瀧にとって一番大切な彼女(ひと)。

でも、この年の差を埋めるには、まだまだ頑張らなければならないようですね。

おしまい