君の名は。SS 瀧三デート話。初デート編⑥~⑨

>⑥選択するのは難しい。

正直、選択肢は多い方がいいと思ってたし、この時期であれば春からのロングヒット作品に加えて、GW時期に合わせた新作映画もあるから、何かしら彼女の興味を引く作品があるはずだと思っていた。映画館に来て『何か観たい映画ありますか?』と尋ねてみれば、あとは何とか……
が、俺は脳内シミュレーションを完全に見誤った。

「立花さんは、どういう映画がお好きなんですか?」

何かを期待するような、上目遣いでの逆質問。
普段、映画なんて観ないし、たまに評判の大作を観るくらいだけど、前回観たのっていつだっけ?というレベル。
まさか"二時間くらい会話しなくていいから"なんて理由で映画館を選んだとは、流石に言えない。
「ええと……」
シネコンの上映スケジュールを眺める。正直、タイトルだけ見てもちょっと聞きかじった程度にしかわからない。
あれは、『全米ナンバー1大ヒット』という枕詞がついたCMをよく見かけるカーアクション映画。但し『2』となってるから、これは続編である訳で。
……俺、『1』は観たことねぇ。

ええと、アレは確か、毎年春先にやっている子供向けアニメの長編映画
……デートでコレはないよな。

タイトルだけではわからず、辺りを見渡せば、学園恋愛モノっぽい雰囲気で紹介されている映画。デートと言えば、やはりこれか?
いやだがしかし!どういう映画が好きか?と問われて、『恋愛映画が好きです!』とか言う俺は、想像しただけでちょっと気持ち悪い。
だけど、宮水さんの趣向と全然違う映画を言ってしまって、

――立花さんとは趣味が合わないな

なんて思われて、好感度が急降下するのもぜったいイヤだ!

「立花……さん?」
声が耳に届いた。ハッとして宮水さんの方に顔を向ければ、大丈夫ですか?と俺を心配する声が。
「あ、映画ですよね……」
俺を見つめる彼女の瞳を見ながら思う。多分適当なことを言ってもダメだ。とりあえず正直に言うしか!
「俺、普段映画はあんまり観なくて。前に友達と来たりもしましたけど、最近はそんなに……。あ、でも、結構前に観た映画で好きだったやつがあります」
「どんな映画なんですか?」
「いや、アニメなんでちょっと恥ずかしいんですけど、その作品、情景の描写が凄く奇麗で、まるで実写みたいで、俺、建築物とか風景とか好きで、自分でも風景画を描いたりするんで思わず引き込まれるように見とれてしまったというか、でも本当凄いと思って」

はたと気づく。宮水さんが俺の言葉一つ一つに頷くように聞いてくれるから、つい熱く語ってしまっていた。

*   *   *

立花さんのことが知りたくて、どんな映画が好きなんだろうと聞いてみた。何だか難しく考えてしまったみたいで、悪かったなと思っていたら、彼が好きだっていう映画を教えてくれた。
「すみません……その映画くらいしか思いつかなかったんですけど」
「私もそんなに映画は観ないので詳しくないんですけど、でも折角だし、立花さんが好きだっていう映画、今度借りて観てみますね」
「あ、だったら今度一緒に、」
「えっ?」
言ってしまってから、しまった、という表情で彼は口許を抑える。

『一緒に、』そのつづきは?彼の言葉を期待してる私がいる。でも、何となくわかっていた。

「いや、別にそういう訳じゃなくて……ですね」

きっと照れて言えないんじゃないかって。
離れたり、近づいたり。私達は、まだ心も体もお互いの距離感が掴めなくて。
つい、クスッと笑ってしまった。
「一緒に、なんですか?」
ちょっと揶揄うような口調で、彼を間近で見上げるように思い切って言ってみる。
あなたが一歩引いてしまうのなら、私は一歩踏み出して。私にもう少し近付いてくれてもいいんだよって心の声を届けるように。
彼の瞳から目は逸らさない。笑いかけたつもりだったけど、それなりに真剣な表情になってるのかもしれない。
だって、

「……一緒に観ませんか、その映画」

そう応えてくれた彼の表情は、とっても真剣だったから。

「約束、ですよ」
「はい、約束です」

心は通じると思う。だけど言葉でしか通じないこともやっぱりある。
彼のことを知りたいと思うのなら、たくさん言葉を交わして。会話をして。だから、わからないのなら、知りたいのなら、聞いてみよう、話してみよう。

「宮水さんの好みもあると思うんで、観る映画、一緒に決めませんか?」
「はい、私、スマフォで調べてみますね」

まずは、二人で楽しめそうな映画を選ぶことから。
ほんの些細なことだけど、私にとって、今日初めて自分らしく彼の隣に居られるような、そんな気がしていた。


>⑦ぎこちない会話だけど、少しずつ。

「アレなんかどうですか?」
指差した先にある作品紹介ポスター。確かGWに合わせて上映を開始した作品。所謂、青春恋愛系っぽい感じだけど、スマフォでネタバレのない程度に観た人の感想調べてみると、それほど評価は悪くない。本当はハッピーエンドなのか知りたいところだけど、そこまで調べてしまうのは悪い気がして、ページを閉じた。
「評価はそんなに悪くないみたいですけど……」
特に観たい作品がある訳ではない。彼が観たい映画があるならそれでも構わない。だけどもし、今日という日をいつか二人で思い出すことがあったら、こんな作品の方がいいかな、なんて思えたから。
「あー……」
肯定とも否定ともとれるような反応で、立花さんは首の後ろに手を当てる。
「や、やっぱり他の作品にしましょうか!?」
デートとは言ってくれたけど、つき合ってる訳じゃないし、恋愛ものは変だと思われたのかもしれない。
ちょっと気持ちを押し出しすぎた自分自身に照れ笑いしながら毛先に触れると、逆に慌てた彼の声。
「い、いや!違うんです!!あ、あの、いいんですか?俺と一緒にその……」
「恋愛系ですか?」
「はい」
コクンと立花さんは頷いた。
「私は……立花さんとだから観たいっていうか、逆に立花さんは私と一緒じゃダメですか?」
「そんなこと!」
間髪入れずに彼の言葉。まだ彼と一緒にいると少し緊張するけど、
「俺も……宮水さんと一緒に観たいです」
彼からもらう言葉ひとつひとつがちょっとずつ緊張を解いてくれる、そんな気がしてる。
「じゃあ、決まりですね」
一緒にチケットの販売機へと向かう。

「時間、どうします?もう少し待てば次の回みたいですけど、午後の回を予約して、先にお昼食べますか?」
列の後ろへと並ぶと、彼は上映スケジュールへと視線を向けた。
「お腹空いてます?」
「そうっすね……」
そう言うと彼はお腹に手を当てて考え込む。あ、そう言えば、立花さん……
「朝ご飯、食べて来ました?」
「……いえ、寝坊したんで」
すみません、と気まずそうに頭を下げる。
「じゃあ、先にお昼軽く食べませんか?もともとそのつもりだった訳ですし」
「なんか俺が寝坊したせいみたいで……」
「そんなことないですよ、私も食べたの早かったんで、ちょっとお腹空いてますから」
流石に六時の朝ご飯は早かったみたい。

*   *   *

何と言うか、宮水さんが積極的に話しかけてくれてる気がする。
気がするというのは、俺はこういったデートでの会話経験は殆ど皆無だし、普段女性とプライベートの会話することも多くないから、あくまで感覚的なものだ。
俺もどんどん話しかけていけばいいんだろうか?でも、正直俺は女性との会話の引き出しがまるでない。面白いことを言えそうにないし、俺の興味のあることを話したとして、果たして彼女は面白いんだろうか?
昨日のシミュレーションでは会話は途切れさせないようにと、あれこれスマフォで調べてみたけど、いざ本人を前にすると調べたことは殆ど脳内から吹っ飛んでいる。
「席は隣同士でいいですか?」
「え?あ、はい、もちろん」
タッチパネルで映画の席を選びながら、ついそんなことを聞いてしまった。
不思議そうな顔をしている彼女を見て、俺自身、何言ってるんだー!一つ空けて座る訳ねーだろー!と心の中で叫んでいる。
通路側、並んで二つ座席を予約。代金を支払うとチケットが二枚。
「お金払いますね」
「あ、いや、これは俺が」
「ダメですよ、こういう時は割り勘です」
はい、と彼女が千円札を二枚差し出してくる。俺はそれを受け取ると、お釣とチケットを一枚彼女に手渡す。
一連の流れで、彼女はやっぱりそれなりにデートの経験があるのかな、なんて思った。
俺みたいな恋愛経験乏しい初心者じゃデートを楽しんでもらえてないんじゃないかと、そんな不安が心をよぎる。
だけど……
「あ、あのっ!」
「はい?」

彼女のことだけは、背伸びしてでも、無理してでも、諦めたくなんてないから。
だから、一歩踏み出せ、俺!!

「映画!楽しみですね!」
「はい、とっても楽しみです♪」

そう言って応えてくれた彼女の笑顔は、思い上がりかもしれないけど、ちゃんと心から言ってくれてるんじゃないかって。
だって、正直、その笑顔を見て、自分の気持ちを改めて自覚したから。

彼女のことが好きだって……


>⑧ありのままの自分が出せたら。

「飲み物はどちらになさいますか?」
「えっと……じゃあ、コーヒー、ホットで」
「私は、ジンジャーエールで」
「かしこましりました。只今ご用意いたしますので、そちらで少々お待ちください」
マニュアル通りの対応で、テキパキと店員さんがセットメニューの準備を進めていく。
トレイの上に乗っていくポテト、飲み物。あとはハンバーガーを待つのみだが、もう少し時間がかかるようだ。その間、俺はチラリと彼女の方を見遣る。
その表情は、準備が整うのを心待ちにしてるみたいに楽しそうな表情をしている。そんな彼女を確認すると、俺は眉間にしわを寄せた。

俺のデートプランでは、お昼はどこかのカフェで洒落たランチでもと思っていたのだが、彼女に希望を聞いてみたら某ファーストフード店でハンバーガーが食べたいとのこと。いや、別に全然構わないんだけど、本当にこんなところでいいんだろうか?とか、もしかして社会人なりたてだから俺の懐具合を心配されてる?とか、そんなことを考えてしまってる自分がいる。
どうも予定通りにいかない初デートに、思わずハァと小さくため息を吐けば、どうかしました?と俺を見上げる彼女。
「い、いや、なんでもないです!」
「番号札○番、セットメニューお待ちのお客様、大変お待たせいたしました!」
丁度その時、店員さんの快活な声が届く。俺は二人分のセットメニューが乗ったトレイを手に取った。

二階に上がると、お昼時なせいか、学生っぽい若者や小さい子供連れのファミリーなどで結構混雑している。
「あ、立花さん、あそこ!空くみたいですよ」
外が見える窓際のカウンター席、丁度席を立ち上がる学生のカップルが。宮水さんは早足でその席まで行き、しっかり二席を確保すると、嬉しそうに笑みをこぼす。
「良かったですね♪」
「本当ですね、タイミングが良かった」
「日頃の行いがいいからですね」
「それは、どっちがですか?」
「勿論、二人ともです!」
笑いながら椅子に座った宮水さんの前に、二人分のハンバーガーセットが乗ったトレイを置く。

「えっと、これと、これは私、ポテトは、」
「ポテトは同じだから、どちらでも」
「あはは、確かにそうですね」
俺も彼女の隣に座ると、注文した自分のハンバーガーとコーヒーを手前に寄せる。
「久しぶりだなぁ、このポテト」
いただきます、と言うや早速ポテトに手を伸ばす宮水さん。俺は両手に持ったハンバーガーの袋を開けると早速それにかぶりつく。
もぐもぐと食べながら、特段美味しいものでもないけど、こういうジャンクフードってたまに無性に食べたくなるよな、なんて考えに至る。
「宮水さんは、こういう店、よく来るんですか?」
「いえ、あまり来ません」
「あれ?そうなんですか?それじゃ、なんで?」
「あ……もしかして、立花さんはこういうお店、嫌い……でした?」
「い、いや、そんなことありませんよっ!」
下眉を下げて、困ったような、失敗したように気まずそうな表情を浮かべる宮水さんを見て、俺は慌てて言葉を重ねる。
「いや、ほら、いつもだとカフェで会ってたじゃないですか。だから今日もそういう店かな、と思ってたんですけど……」
「あ……もしかして行きたいお店があったとか?」
「いや、それは、あの、夕飯一緒にどうかなーって考えてるお店はあるんですけど……」
流れの中で、夕飯のお誘いまでしてしまった。このタイミングで誘うつりもりじゃなかったんだけど。
「立花さんさえ良ければ、行ってみたいです!そのお店」
「いや、元々誘うつもりだったんで……」
「あ……ありがとう、ございます」
宮水さんはフライドポテトをモグモグと口にしながら、照れて俯いてしまった。

*   *   *

「あの、私……デートでこういうお店に来てみたかったんです」
「ファーストフードですか?」
はい、と頷くとフロアを見回す。友達同士のグループ、小さい子供を連れた家族、若いカップルなどなど。
「お洒落な感じじゃないかもしれないけど、気軽に座って、話ができて。何となく飾らずに居られるような気がして。だから……」
今、この場所で立花さんと一緒に居ることを心から楽しんでるんだってこと、伝わるように。
「私、立花さんの前だと緊張しちゃうんですけど、こういう場所なら少しは自分らしくできるかなーって」
そう言って私は精一杯笑ってみせた。
立花さんは驚いたみたいに大きく目を見開く。私を見ながら少しだけ何か考えていたみたいだったけど、注文したコーヒーを一口飲むと、落ち着いた声で、
「俺、宮水さんのこと、もっと知りたい」そう言ってくれた。
「わ、私も、立花さんのこと、もっと知りたいです。だから、」
「はい」
「いっぱい、お話しませんか?」
そう言った私、今度は精一杯じゃなくて、自然に笑えてたと思う。

色んな話をした。今まで何回も会っていたのに、こんな些細なことも知らなくて。好きな食べ物、嫌いな食べ物、趣味とか、仕事のこととか。私にはわからないことも多かったけど、一生懸命、彼が話をしているのを聞いてるのは決してイヤじゃなかった。

「スミマセン。いきなり建物の話をしても、よくわかりませんよね?」
「うん。だけど、私の仕事のことも、聞いててわからなかったでしょ?」
「まあ、正直なところ、全く」
「頭に『?』マーク出てたよ」
「え?本当ですか?」
わからないことに対する気まずさじゃなくて、お互いのことはまだわからないことが沢山ある。それが"わかった"だけでも、二人の仲は大きく前進したみたいな気がしてくるから、何だか不思議な気持ち。

そんな私達の後ろを、部活帰りだろうか、高校生のカップルらしき二人組が楽しそうに通り過ぎていく。
「いいですね」
「何がですか?」
「いえ、私も、高校生くらいの時、あんな風にしてみたかったかなって」
山に囲まれた田舎町の糸守にはカフェはおろか、こんなファーストフード店すらなかった訳で。まあ、何故かスナックは二軒あったけど。
だけど、もし彼とその頃に出会えていたら、こんな風にデートできたかな?
そんな"ありえない"ことをつい考えてしまった自分に、思わず笑ってしまう。
「……俺も」
「え?」
「もし、高校の頃の宮水さんに出会えてたら、こうやってデートに誘ってたと思います」
「あ……」
同じように感じてくれた彼の言葉が、心から嬉しいって思っていた。


>⑨インターミッション

「あの、ちょっと席外しますね」
「あ、はい」
彼に断りを入れて、化粧室に向かう。喧噪の店内から離れ、自分の胸に手を当てると、トクトク……と早鳴っている鼓動。
嬉しくて、楽しくて、やっぱり少しだけ緊張して。ちゃんとできてるかな?彼に呆れられてないかな?それとも、少しは……喜んでくれてるかな?

*   *   *

宮水さんの後ろ姿が見えなくなると、ふぅ……と大きく息を吐く。
「ヤバいな、俺……」
口許に手を当てて窓の外を眺める。窓ガラスの向こう側はいつも見慣れた新宿のビル群。でも、そんなことに今更気づく。彼女と一緒に居る時は、ここはまるで別世界のように感じられた。もう彼女しか見えてなかった。

「余裕なさすぎだろ、俺」

デートなんてまるでしたことない俺にとって、今日は朝からあたふたしまくりで。随分、失敗してしまったような気もする。

「ちゃんとやれてんのか……?」

自分自身に問うように、彼女と過ごしたほんの数時間を振り返る。
寝坊して何とか待ち合わせに間に合って。電車に乗って、駅で手を繋いで。並んで歩いて、映画館へ行って、今、こうしてお昼を食べて……
気がつけば首の後ろに手を当てていた。

「ぜったい浮かれてるよなぁ……」

本当に楽しすぎる。
誰かと一緒に居る時間がこんなにも嬉しいと思えるなんて、今の俺、彼女ともっと一緒に居たいって思ってる。
ほんの少し席を外しただけだっていうのに、すぐに戻ってくるってわかってるはずなのに、フロアのどこかに居る彼女の姿を探していた。
周りを見れば、楽しそうに会話をしているカップルも何組か目につく。俺達も端から見ればあんな風に見えるんだろうか?それとも今の俺達みたいにまだ付き合ってもなくて、男の方は彼女を振り向かせようと一生懸命なんだろうか?
世の中のカップル、すげーな。みんな、こんな緊張感を乗り越えて告白したのか?

ふと思い立って、スマフォを取り出す。
メッセージアプリを立ち上げて、親友の名前を表示する。だけど、そのまま何もせず画面を閉じた。

「司のヤツも頑張ったんだろうな……」

大学生で婚約した親友。そつがないヤツとは言え、相手はあの奥寺先輩。馴れ初めは多少聞いてるけど、自分自身がこの状況になってみると、振り向いてもらうためにどれだけ必死に頑張ったのかよくわかる。
そして……俺は司じゃない。
俺らしく。親友二人からのアドバイス。きっとそれしかないんだと思う。

「宮水さんのこと……好きだ」

確信を込めて、彼女への想いを口にする。
今はまだ小さな声。初デートで告白は早いということはわかってる。だけど……
ずっと昔、心の奥底にしまい込んで、もうどこにあるのかもわからないような想いが、漸くハッキリと目を覚ましたかのように、俺は決意と共に頷いた。

*   *   *

化粧室の鏡の前で、身だしなみを整える。
お化粧大丈夫かな?髪型崩れてないかな?黒髪に触れながら、髪を結ぶ組紐の先端に触れて。
「うん……よし!」
小さく頷く。

鏡の中の自分を見つめる。と、不意に笑顔が零れた。
あの日まで、自分の家の鏡で見る私の表情は、どこか寂しそうで、哀しそうで、何かに必死で余裕がなくて。
だけど、今の私は、

「立花さんのおかげだね」

こんなに自然に笑うことができるんだ……

「嬉しいな」

彼に出逢って、お話して、今日はデートに誘ってもらえた。

「楽しいな」

待ち合せ場所で彼を待つ。一緒に電車に乗る。手を繋いだ。お昼を食べて他愛もない会話をして。そして、これから一緒に映画を観る。
まだまだ今日は終わってない。

「もっと一緒に……居たいな」

今日だけじゃなくて、これからも。そう願ってる自分がいる。
どうすればいいんだろうか。彼の想いを期待しながら、だけど自分の中で大きく風船のように膨れあがった想いは止められそうにない。

「立花さんのこと……好き」

破裂しそうなこの想いを少し抑えるように想いを言葉にした。口にした途端、トクンと心臓が大きく飛び跳ねる。
何をいまさら、と毛先に触れながら、頬を染めながら。だけどそんな私はとってもいい表情(かお)をしてると思うんだ。

「私から告白してもいいのかな……?」

不意に芽生えた決意。
私ってこんなに積極的だったっけ?だけど、そんな今の自分のこと、私はとっても好きだなって、そう思えた。


>なかがき
⑥~⑨お昼編。夏恋シリーズ書く際に、東京に取材に行ったんですけど、その時の経験が色々役に立っています(というかその流れで新宿デートになった気が)。
ウィンドウショッピングとか初デート瀧三は会話にならんのではないか、と思って映画に。新宿映画館と言えば『新宿バルト9』だよね!ってなった気がします(現地取材済みでした)。
お昼ご飯が某ファーストフード店になったのは、二人のデートはカフェが定番だったので敢えて外した感じですね。同級生ifではないですが、学生デートっぽくできたらいいなーと思ったのでした。
距離感わからなくてどうしたらいい?から、相手との距離を縮めていきたい!へ。
一日のデートのお話ですが、ほんの少しずつでも変化していく二人の続きを楽しんで頂けましたら、幸いです。