君の名は。SS 瀧三誕生日なのでなんか書いてみた(タイトルはまだない

瀧くん、三葉さん、お誕生日おめでとう!ということで書いてみた。

あまり誕生日っぽくないけど、それはネタが尽きてるからです笑

12/1追記しました。

ちょっとまとまりない内容になってしまったな……

 


風呂上がり、まだ乾ききらない髪にタオルを当てながらリビングに戻ると、瀧くんが雑誌を手にソファでくつろいでいた。
「お風呂、先にありがと」
「おう」
視線は雑誌から離さずに、なんとも軽い反応に一体何を読んでいるんだろう、と彼のすぐ隣に腰掛けると横から覗き込んだ。
「ちょっ、なんだよ?」
「いやー、瀧くん何を読んどるのかなーって」
見れば本屋やコンビニで見かける情報誌。十二月が目前に差し迫っているせいかイルミネーションやらクリスマスっぽい記事が開いた頁から読み取れる。
「もうすぐ三葉の誕生日だろ?お祝いするのに何かいい所ないかと思ってさ」
「誕生日って、瀧くんだって一緒の日やろ」
「いいんだよ、俺は。三葉が喜んでくれればそれで充分だし」
「いやいや、私だって瀧くんに喜んでもらいたいんやけど?」
祝ってくれようとする気持ちは嬉しいけど、折角同じ誕生日なんだからお祝いするなら二人ともがいいに決まってる。妙な遠慮がなんだか面白くなくて、彼との距離を更に詰めるとその顔をのぞき込んだ。
「なんか急に気を遣って……私に後ろめたいことでもあるとか?」
「ばか!ねえよ、そんなもん」
私に気圧されたのか、ちょっと引き気味の瀧くんはハァと小さくため息をつくと、首の後ろに手を当てた。
「いや、俺達って誕生日一緒だろ?」
「うん」
「二人で互いにお祝いするのは勿論いいんだけどさ、俺としてはこう、三葉をもてなしたいというか、喜んでもらいたいというか。折角の誕生日なんだし、してもらいたい事とか、三葉にもうすこし我儘言ってもらいたいんだよ」
同じ誕生日だと結局三葉も俺に気を遣うだろ?そんな言葉を続ける瀧くんに、私は目を丸くする。
普段は女心がわかってるのかわかってないのか、そんな言動しがちな瀧くんだけど、不器用なりに私のことを大切にしてくれる想いは伝わってくる。つい綻んでしまいそうな口許を抑えつつ、瀧くんの隣、ピタリとくっつくように座り直すと彼の肩に身を預けてみた。
「ふふっ、私、瀧くんに愛されとるんやねぇ♪」
「ま、まあな」
短い言葉の後、彼の引き締まった腕が私の肩を抱き寄せる。大きな手、伝わる体温、瀧くんに触れているとやっぱり嬉しくて安心する。
わかってないなぁ、瀧くんは。こうやって一緒の時間を過ごせるだけで私は充分幸せなのに。それに瀧くんにそんなに気を遣われるほど、遠慮してるつもりもないんだけどな。
「でも瀧くん、私、普段それなりに我儘言っとると思うけど?」
「うん?あー……確かにカフェ行くと遠慮ないよな、三葉は」
「うっ」
休日、二人でカフェ巡りすると、おすすめパンケーキを複数頼んでしまう。こういうことが私には、時々ある。そして、頼んだはずのパンケーキは、いつも残らない……
今、脳裏に浮かぶのは、クリームで彩られた豪華なパンケーキとテーブルの対面に座るブラックコーヒーしか注文してない瀧くんの呆れた表情だ。
「ほ、ほら、私も結構我儘しとるやろ?」
「いや、そういうんじゃなくて」
引きつった笑顔で何とか答えた私を別に茶化す訳でもなく、瀧くんはうーんと小さく唸ると、私の肩に回していた腕を戻し指を組んで考え込む。
そうして少し沈黙が続いてから、「……あー、俺、三葉に追いつきたいのかもな」と呟いた。
「追いつきたい?」
「誕生日一緒だとずっと三歳差が縮まらないだろ?なんかそれが納得いかないっていうか」
「え……瀧くん、年上はイヤとか?」
「ばかっ、そういうんじゃねえって」
そんなつもりはなかったのに、ちょっとだけ声のトーンが下がってしまった私を気遣うように瀧くんが手を重ねてくる。そしてそのままどちらかともなく指が絡み手が繋がれる。
「俺さ、どこかで三葉のこと、年上に見たくないって気持ちあるんだよ。だからかな、三葉のことになるとなんか必死になるっていうか、背伸びしたくなるっていうか」
「それは大丈夫やよ、瀧くん」
「大丈夫?」
「うん。私、あんまり瀧くんを年下っぽく見とらんもん。でもやっぱり三つ年上やし、瀧くんに嫌われないように必死になるっていうか、頑張ろうってなるっていうか……」
言いながら少し可笑しくなってきた。やっぱり私達はどこか似た者同士。言ってること、考えてることがどこか重なり合う。瀧くんもそれがわかったのか、さっきまで真剣だった表情がどこか緩んでいる。
「なんだよ、三葉。それじゃ俺、いつまでたっても追いつけねーじゃん」
「ふふっ、頑張って追いかけて来てね、瀧くん♪」
こんな風に軽口を言い合えるんだから、年上年下なんて気にする必要はないんだと思う。
でもね、瀧くん。君は気づいてないだけで、前よりずっと成長してるんだよ。出逢った頃より精悍に、大人びた表情。これからも君の隣で成長を見つめ続けていきたいな……

二人の誕生日まであと少し。こんな風に二人の時間を育みながら、今年も特別な一日になりますように、と胸の内で願う。

「あ!してもらいたいことって言ったら、朝、勝手に私の胸触るのは、」
「それは却下」
最後まで言う前に遮られてしまった。瀧くんが言えと言ったのに……


*   *   *

 

折角の誕生日だというのに、二人揃って朝寝坊してしまったせいか、朝からバタバタ!朝御飯もそこそこに慌てて駅に向かうはめになってしまった。(昨夜寝るのが遅かった事について二人とも反省しており〼)
お昼休みもお互い時間が合わなかったのか、瀧くんに送ったメッセージに漸く既読がついたのは、私の休憩時間が終わる直前だった。

「折角二人の誕生日なのに、タイミング合わんなあ……」
 取引先との打ち合わせの帰り、電車に揺られながら瀧くんからの返信に目を通している。今日から師走。瀧くんは仕事が慌ただしいらしく今日は帰りが遅くなるみたい。
ハァと小さくため息を吐くとスマフォを鞄の中に仕舞い、車窓から外を眺めた。
夕方と言ってもまだそんなに遅い訳じゃないのに、茜色の空はもう随分と夕闇に混ざり合っている。時折ビル群の間から差し込む陽の光はもう直視できるくらいに弱々しく、冬の日の短さを否応なしに感じさせる。
「カタワレ時……か」
小さく呟くと、ふと瀧くんの顔が思い浮かんだ。
ずっと君を探していた。逢いたいって思ってた。出逢うまでの日々は寂しくて、あるべき何かが欠けてしまってるようで、どこか寂しかった。
それがあの日出逢い、一緒に過ごしていく時間を重ねていく度に満たされて、今は幸せで満たされて……

だけど、時折不安を感じる時もある。――この幸せはいつまで続くんだろうって。
育ってきた環境がそう思わせるんだろうか。
幸せだった私の家族。でも幼い頃にお母さんを喪って、それから間もなくお父さんが出て行ってしまった。
そしてあの日、星が降った日。生まれ故郷は消えてしまい、大事にしていたものは無くなってしまった。
今はお父さんとは仲直りできたけど、どんなに大切なものだとしても、それがいつまでもあるものじゃないって、心のどこかでそう思ってる自分がいることも否定できない。
瀧くんのことは信じてる。
瀧くんだって私の事を信じてくれてる。
だけど私たちの想いだけで幸せはずっと続いていくなんて、そう言い切ることもまたできない。

――次は代々木、代々木

折角の誕生日だというのに、こんなことを考えてしまうのは冬の夕暮れ時がどこか寂しくて人恋しくするからだろうか?
「瀧くんに……早く会いたいな」
徐々に速度を落としていく電車。降車口付近の手すりに掴まりながら、私はすこし気を休めようと目を瞑った。
軽快なメロディの後、雑踏のざわめきが流れていくのが聞こえる。ドアが閉じ、再び走り出す電車の音。そして、
「三葉」
聞き慣れたその声に、私は目を開く。
「え、瀧くん?」
私のすぐ前にスーツ姿の瀧くんが居た。カタワレ時の淡い光の中、優しく微笑みながら、ここに居るのが当たり前って表情で。
「なんだよ、目なんか瞑って。疲れてるのか?」
「ううん、ちょっと考え事してただけ。それより瀧くん、どうしてここに?」
「仕事で外に出てたんだよ。これから会社戻るとこ」
「すごい偶然やね」
「だろ?丁度ホーム出たら、この車輌に乗ってる三葉が見えてさ。ギリギリだったけど間に合って良かった」
「えっ、追いかけて来たの!?」
「いや、朝からなんかタイミング合わなかっただろ?だからこれ以上はって必死で追いついた」
そう言って笑顔を見せる瀧くんにつられて私も顔が綻ぶ。

不意に電車が大きく揺れ、バランスを崩し掛けたところを瀧くんがとっさに私を支えてくれる。そしてそのまま寄り添うようにくっついて。
「私達、あんなに逢えなかったのにね」
君に、ずっと逢いたくて、逢えなかった。
「そうだな。……でも俺はもう三葉のこと知ってるから」
あの日、並走する電車で君を見つけて、この東京を走り回って私を見つけてくれた。
「また私のこと、見つけてくれる?」
「世界中どこに居たって必ず見つけるさ」
試すような物言いに、君は事も無げに答えを返してくれる。

そっか、幸せはいつまでも続かないのだとしても、この手から離れてしまう時があったとしても、きっとまた何度だって見つけられる。
瀧くん一緒なら、私たち二人ならこれからもきっと大丈夫。
「瀧くん、お誕生日おめでとう」
こんな場所で、と思いつつ、瀧くんが生まれてきてくれたことに感謝したくて、小さな声でお祝いする。
「え?あ、三葉こそおめでとう」
不意のお祝いに驚いた表情になった瀧くん。でもすぐに落ちついて私を祝ってくれる。
「仕事早く終わらせて、できるだけ早く帰るから」
「うん……私も」
そう言うと前よりは随分似合うようになった彼のスーツの裾を掴む。

二人の誕生日。ささやかな幸せ。
目的地に着くまでこのまま、もうすこしだけ、くっついていようか……