君の名は。SS 欠けた想いは。

 

瀧三、出逢えて良かったね……

 

生きる上で、人を好きになる必要はあるのだろうか?

他に好きな子がいるでしょう?

好きなヤツいねえの?

あの……私と付き合ってください!

好きってなんだ?恋ってなんだ?自分でない誰かに惹かれることが恋なんだとすれば、俺は恋をしたことはない。
ない、というより誰かに惹かれるという心が欠けている、そんな気がする。

生きていく上で、誰かを好きにならなきゃいけない必要ってあるのかな?

付き合ってくれませんか?

誰かいい人、おらんの?

あなたが、好きです!

人から受ける好意と呼ばれるもの。だけど、私にはわからない。
試しにつき合ってみれば?と言われることもある。でも私は絶対に好きになることはないという確信がある。
いや、そもそも私自身に人を好きになるという感覚がないんじゃないか?そんな気さえする。

俺は、
私は、

ただ、誰かを、何かを探し続けていて。

別に好きな人なんかいなくても構わないと思っている。

そんなことより、自分自身が何を探しているのか、それが知りたくて。

周りの人には理解されないのかもしれない。

理解してもらおうとも思ってない。

ただ、自分の心がいつまでも、わからない何かを求め続けている。

この求め続ける行為そのものに、仮に名前を付けるのだとしたら、それはもしかしたら"恋"なのかもしれない。


夢を見て、目覚める朝。

目覚めてすぐ何かが零れ落ちていくあの感覚。

あの時と同じ。

あの時?わからない。

その瞬間、目の前から消えてしまった彼女。

その瞬間、目の前から消えてしまった彼。

そんな人に会ったことなんてないのに。

そんな人、忘れるはずなんてないのに。

ただ、この手のひらに残った何かがあって。

それを追い求めて、日々は続いていく。


だけど、それは必然。

失っていた自分自身の想いに惹かれ合うのは当然のこと。

その瞬間、出逢った。

探していたものを知る。

それは君。

それはあなた。

出逢うために走る。

心が惹かれ合うのがわかる。

君の中にいるのは私。

君の中にいるのは俺。

だから、出逢う。

その場所で、出逢う。

だけど、心なんて見えないものがどこか信じられなくて。

無様にも私達はすれ違う。

「俺、君をどこかで!」
想いが、心が身体を追い越していた。

「私も!」
理解する。私はちゃんと恋をしていたってことを。

俺の好きという想いは君が持っていてくれた。

私の好きという想いはあなたが持っていてくれた。

失った自分の心の替わりに君が残してくれたもの。

そう、それはあなたの温もり。

もうすこしだけでいいからと願っていた。

もうすこしだけ一緒にいたいと、そう願っていた。

君に手渡していた俺の想い。返してくれなくてもいい。欠けたままでいい。

私の中になくても、あなたがこれから側にいてくれたら、私はきっと満たされ続ける。

さあ、欠けたままの日々は終わりにしよう。

終わりは始まり。二人で始める新しい物語。

だから、もう一度教えて欲しい。

二人に相応しい『はじめまして』の合図で。

――君の、名前は、