君の名は。SS 瀧三デート話。初デート編⑬~⑮

 

>⑬触れ合う心。言えない言葉。

一瞬、きょとんとした顔の宮水さん。暫し間があった後、戸惑う表情を交えながら、選ぶようにゆっくり言葉を紡ぐ。
「えっと、"彼女"は……いません」
「……え?」
「"彼女"は……いないです」
ここにきて、ふと気づく。
俺、何て言ったっけ?まず"彼女"に"彼氏"がいるかどうか確認して、もしフリーだったら、つき合って下さい!"彼女"にってなって下さい!とか、そんな風に言おうと考えてて。

――"彼女"、居るんですかっ!?

「……あ」

い、言い間違ったあぁぁぁーーー!?

頭を抱え、項垂れる。
俺にとって、一世一代の告白タイム!!雰囲気良し、自分の気持ちも固まって、あとは言うだけだったのに、宮水さんを前に緊張し過ぎて大ポカをやらかしてしまった。
ああ……俺、カッコ悪ぃ……
ハァ、とため息を一つ吐くと、あの、と彼女の声が耳に届いた。
「立花……さん」
「……はい」
ゆっくりを顔を上げる。ちょっと情けないけど、今の心情を誤魔化すように一先ず作り笑いを彼女に向けた。
「いません」
「ハハ、そ、そりゃそうですよね、"彼女"はいないですよね」
「そうじゃなくて!"彼氏"もいません!つき合ってる人とか、そういう人……私、居ません!!」
少し前のめりに、手をギュゥと握り締めて彼女は力強く、俺の目を真っ直ぐ見ながらそう言った。
「フ、フリー……ってことですか?」
「はい!」
彼女に気圧されるように、少し顔を引きながらそう聞けば、彼女はうんうん!と何度も頷く。
「立花さんは?」
「俺?」
「お、おつき合いしている彼女さんとか……やっぱり居るんですか?」
「い、いませんよっ!!居たら、宮水さんをデートになんて誘いません!」
「本当……ですか?」
「本当です、本当!!」
俺の言葉に、良かったぁと胸に手を当て、とても嬉しそうな微笑んでくれた。その眩い表情に心臓が再び跳ね上がる。

ここまで来たら……互いにわかる。
きっと、俺達は惹かれ合っていて。
たぶん、お互いの関係を進めることを望んでいて。
だから、きっと言ってしまえばいいだけで。

だけど、さっきの失敗が、もう一歩踏み出すことを躊躇わせる。
初デートだぞ。ここまでできれば十分だろ。まだ時間はあるし、ここで無理に言わなくても次のチャンスはきっとあるさ、と。
そんな風に今、言えない自分を肯定する声が聞こえてくる。
さっきまであった勢いはどこかに消えてしまっていて、俺は再び朗らかな陽射しに照れされた庭園へと視線を戻す。
「宮水さんと一緒にいると、俺、すげー楽しいです」
彼女の問いかけへの答えは、正直半分、もう半分は臆病だな、なんて思いながら心の中で苦笑いを浮かべた。

*   *   *

彼の横顔を見つめながら、少しだけ、ううん、かなり落ちこんでる自分がいた。
立花さん、緊張で言い間違っただけなんだから、スルーしてあげれば良かったのに……
真正直に『"彼女"はいません』なんて答えてしまった自分の気の利かなさを、心の中で後悔する。
でも、

言ってくれればいいのに――

意気地なし!って、彼には悪いけど、ほんの少しだけ、心の中で不満を漏らした。
もう、私にだってわかる。立花さんは私に好意を持ってくれてるんだってこと。
だから、『つき合ってる人はいない』ってちゃんと伝えた。
彼が告白してくれたら、もう飛び跳ねてしまうくらい大喜びでOKだ。

けど、そんな彼の頑張りばかりを期待している自分もまたズルイなって、そう思えた。
一生懸命に言おうとしてくれてた。そんなに緊張しなくてもいいのにって思うけど、それだけ必死なんだって伝わってくる。
彼のそんな気持ち、私にはよくわかる。だって、私も立花さんのこと必死だから……

「あの!」
「はい?」
「立花さん、疲れてますか?」
「大丈夫ですよ、そろそろどこかに行きますか?」
彼は気を取り直してくれたみたいで、自然と笑いかけてくれる。その表情を見て、心から思う。

ああ、彼のこと、好きだなぁって。

だから、私なりに頑張ろうって。
木製のベンチから立ち上がり、彼の正面に立つと、急かすように彼の手を取る。
「私、立花さんと行きたいところがあるんです」
握った彼の手から伝わる体温が、とっても心地よくて、不思議と心の奥底から勇気が湧いてきた。


>⑭新宿、千駄ヶ谷四ツ谷

木漏れ日の中、二人並んで苑内を歩く。もう出逢った頃の春は通り過ぎて、季節は確実に移り変わっている。そんな季節の、何気ない日々の移ろいを、これからも隣にいる人と一緒に感じていきたい。
だから……

何気ない会話を交わしながら、千駄ヶ谷門を抜けて、そのまま最寄り駅を目指す。
そう言えば、と思う。あれだけ悩んでいた彼との距離感、歩くペースは、いつの間にかとっても自然な感じで、思わず顔が綻ぶ。
「どうかしましたか?」
「いえ、何でも」
「本当ですか?」
「本当ですよ」
「なんか笑ってるんですけど……?」
こんなやり取りもどこか自然で。それが嬉しくて、くすぐったくてクスクスと笑みが零れてしまう。
「立花さんと居ると、楽しいなって」
そんな私の正直な言葉を彼に贈れば、彼は照れたように首の後ろに手を当てる。
「俺も……です」
「はい♪」

そして、私達は千駄ヶ谷駅の改札前へとやってきた。
「来たかった場所ってここですか?」
立花さんの問いかけに私は首を振った。
「いえ、ここじゃなくて。……だけど、今日のデートでここに来れたのは、なんだか不思議な感じがします」
「不思議な感じ……ですか?」
「私、あの日、電車で立花さんを見つけて、思わずこの駅で降りたんですよ」
探していた何か……ううん、ずっと探していた"立花さん"を漸く見つけて、後先考えずにこの駅から駆け出した。

「俺も同じです。宮水さんに逢うために……。そう言えばそうでした、今日一緒に降りた新宿駅の改札、俺はあそこを駆け抜けたんです」
互いにあの日、心のままに走り出した気持ちを思い出すように、晴れ渡る青空を見上げる。
「考えてみたら、お互い逆方向の電車に乗り換えてれば、あんなに走らなくても良かったかも」
「確かに」
互いに顔を合わせると、笑い合う。
何だか可笑しくって、嬉しくて、そして、あの日、もしかしたら逢えなかった可能性もあったかもしれないって、不意にそんな風に思えて……
思わず目尻に浮かんだ一滴を指で拭った。

*   *   *

感情が昂ったのか、涙を拭う仕草をした彼女。上手い言葉が見つからなくて、俺はただ「宮水さん」と声を掛けた。
だけど、俺のそんな心配は必要なかったみたいに、彼女は満面の笑顔を俺に向けてくれた。
「二人が出逢った場所」
「え?」
「あの神社に行きたいんです。初めて立花さんが私を誘ってくれたデートだから、二人で一緒に!」


千駄ヶ谷駅から電車に乗り込み、二つ先の四ツ谷駅へと再び向かう。今朝、同じ場所で待ち合わせた時なんて、彼女を見るだけでもド緊張だったのに、今は視線の先の彼女を見守っている。そして彼女もまた、俺の視線に応えるように、色んな表情を見せてくれる。
「宮水さん」
「はい?」
「俺、今日のデート、一生忘れません」
「えー、大袈裟ですよ」
四ツ谷駅を降り、目的地である須賀神社へと向かう道すがら。俺の言葉に彼女は毛先に触れ、頬を染める。その横顔に愛しさと、どこか懐かしさを感じながら言葉を続ける。
「俺、彼女居ないって言いましたけど、実は誰ともつき合ったことなくて」
「えっ!?そうなんですか??」
さっきまでの照れ顔はどこへやら。宮水さんは心底驚いた顔をして俺を見上げる。
「なんか……カッコ悪いっすよね」
「そ、そんなことないです!!……そっか、つき合ってた人、居なかったんだ」
「……なんか嬉しそうな顔してません?」
「ええっ!?」
バッグを持たない右の手で頬に触れると、こちらに表情を悟られないように振り返ってしまった。その一連の動作が可笑しくて、何だか自分のことをそんなにカッコ悪いとか思わずに自然体でいられた。
「宮水さんで良かった」
自分でも驚くくらいに、心が穏やかに落ち着いていて、ゆっくりと言葉を紡いでいた。
「初めて自分からデートに誘いたいって思ったんです。だから俺、このデート、一生忘れません」
「わ、私だって、忘れません!!でも、まだデートは終わってませんよ!もっともっと二人でいいデートにしましょう!ね?」
「確かに、そうですね」
自然な流れで手を差し出す。はい、と彼女は頷くと俺の手を取ってくれた。

そうして、俺達は出逢った階段の前に辿り着く。
あの日、俺は階段の下、彼女は俺を見下ろすように、階段の一番上で、息を切らしながら俺を見つめていた。
春の陽光に照らされていた彼女。ただ"ずっと探していた人"ってだけで、何にも知らなった彼女。
その人は、今、俺のすぐ隣に居てくれる。

「まずはお参りしましょうか」
「そうですね」

一生忘れたくない初めてのデートだから。
だから、もう一度。
この場所で……

決意を新たに、階段を一段一段上っていく。
今度は一人じゃない、二人で一緒に。


>⑮告白。

あの日出逢った階段を、二人で並んで上っていく。
中段に差し掛かった辺り、一度はすれ違ってしまったことを思い出して、繋いだ手が離れないように少しだけ力を込めようとしたら、彼に強く握られた。彼の横顔を見上げれば、私に頷いてくれる。言葉はないけど、きっと彼もあの日の奇跡の出逢いを思い出しているんだろう……

探し続けてきた誰か
ずっと欠けていたかのような想い
何故とか、意味とか、理由とか、いくら考えてもわからない。
ただ、今日、彼と一緒に過ごして、わかったことがある……

鳥居の前、漸く繋いでいた手を解くと、二人で会釈する。
あの彗星の出来事から八年が経っても、こうして神社に訪れると、自然と身が引き締まる。鳥居をくぐれば、どこか空気が変わったような気がするのは、気のせいだろうか?
身を清めるために、手水舎で両手、口を洗い清める。ふと、隣の立花さんを見れば、迷うことのない流れるような所作。
「よくご存知ですね」
「え?なにがです?」
「こういう作法って、知らない人も結構多いので」
「なんか、いつの間にか身についてたんですよね。誰かに教えてもらったのかなぁ」
「へえ、そうなんですか」
そろそろ夕暮れ、日中の陽射しも幾分やわらいで、優しい風が髪を揺らす。こういう場所だからだろうか、本当に心もゆったり落ちついて、オレンジ色に染まり始めた人気のない境内を、二人並んで進んでいく。

社殿の前でお賽銭を用意する。お財布の中の硬貨を見ながら、やっぱりこれかな、と五円玉を手に取り、賽銭箱にそっと投げ入れる。一番大事なのは神様への感謝の気持ちってことはわかってるけど、それでもやっぱり"ご縁"がありますようにって。
と、立花さんも同じように五円玉を賽銭箱に入れた。隣に並ぶ彼と目が合って微笑み合う。
「お参りしましょうか」
「はい」
手を合わせて神様に感謝する。
彼と出逢えた現在(いま)に感謝する。そして彼と共にある未来(これから)を強く願う。
自分自身を見つめて、気持ちに素直になって。
だから、ちゃんと彼に言おうって……

社殿に向かって一礼すると、少しだけ肩の荷が下りたような、そんな気持ちになってホッとする。
「宮水さん、普段と雰囲気が違う感じがしましたよ」
「え?そうですか?」
歩きながら隣を見上げれば、前を向いたまま彼は言葉を続ける。
「何て言うか、凛とした雰囲気っていうか、背すじがピンとして、表情もキリッとした感じで」
「ちょっと、立花さんっ!それじゃ私、普段はボーっとしてるみたいじゃないですかっ」
「えっ!?あー……でもあながち」
「た・ち・ば・な・さんっ!!」
むぅ、と頬を膨らませて怒ったような顔をすれば、立花さんはいたずらっぽくニカッと笑った。そんな彼の笑顔を見たら、こちらも可笑しくなって思わず吹き出してしまった。

ひとしきり笑い合って、私はその場所で立ち止まる。階段の一番上、あの日、立花さんが私に声をかけてくれた場所。
鞄の持ち手を両手でギュゥと握る。立ち止まった彼が振り返り、私の正面に立った。
「ねえ、立花さん?」
「はい」
「さっき、私のこと、普段ボーっとしてるって言いましたけど」
「いや、それは!言葉の綾っていうか、普段は柔らかいっていうか、優しい雰囲気っていうか、」
「大丈夫です、怒ってる訳じゃないですよ」
あたふたしながら弁明する立花さんの姿にクスッと笑ってしまった。
「あとは?」
「あと?」
「……立花さんは、私のこと、どんな人だって思ってますか?」

*   *   *

二人の間を風が通り抜けた。揺れる長い黒髪に触れた彼女の姿に見惚れて、一瞬言葉が出なかった。
「……とても奇麗です」
「っ!?」
どんな人かと聞かれて素直に答えた。宮水さんは顔を真っ赤にしながら、他には?と聞いてくる。
「仕草とか可愛いし、美人だし、声も澄んでて、いいと思います」
「み、見た目とか……だけですか?」
「あなたと居るとホッとします。あなたと居ると気遣いとか、優しさを感じます。……だけど、本当はちょっと大胆なところとか、面白い一面もあるんじゃないかって、今日、あなたと過ごしてそんな風に思いました」
「うん」
「でも、まだあなたのこと、わからないことだらけです。だから、もっともっとあなたのこと知りたいって思ってます」
「うん」
俺の拙い言葉一つ一つに彼女は頷いてくれる。

「私、今日、立花さんとデートしてわかったんです」
「わかった?」
「私達は、お互いに探し合っていた"誰か"で、こうして漸く逢えて。だけどもう、そういうのはいいんじゃないかって」
宮水さんの言葉の意味がよくわからなくて、俺はただ彼女を見つめる。
「わ……たしね、」
そこまで言って、緊張からか、一度、すぅ、はぁ……と彼女はゆっくり深呼吸する。そうして、俺へと一歩踏み出し、真剣な眼差しで俺を見つめる。
「私……もっと立花さんと一緒に居たいんです。立花さんのこともっと知りたい!だから、探してきたとか、そういう繋がりじゃなくて、これからあなたと一緒に居るための繋がりが欲しいんです!!」
お互い見つめ合ったまま、互いの瞳に互いを映して。彼女の言葉が真っ直ぐ胸に届いたから、俺も彼女に伝えたくて手のひらを強く握り締める。

刹那、辺りを影が覆った。反射的に、西の空へと顔を向ける。夕暮れ時の陽の光がビルに遮られ、俺達は暗がりに包み込まれていた。

――カタワレ時……

その言葉にハッとなって彼女の方へと振り向く。彼女もまたさっきまでの俺と同じように夕焼け空を見つめていた。何かを慈しむように、微笑みを浮かべながら。
その姿を見て、なんだろう?わからないけど、心の奥底に初めからあったみたいに、ただ純粋な彼女への想いだけで、俺は……

すきだ――

宮水さんを抱きしめていた。
彼女に気持ちを伝えていた。
周りの音は何も聞こえない。ただ、自分の心臓の音だけが、トクトクと身体中に伝わってくる。

彼女は拒まなかった。遠慮がちに、恐る恐る俺の背中に手を回すと、
「わたしも」
小さな声で、そう応えてくれた。俺の想いを全部受け止めてくれるようにその腕の中に俺を包み込んでくれる。

暫く二人で、そうして抱き合っていた。
理由はよくわからないけど、今、この時の二人の繋がりを見失わないように、確かめ合うように。
きっと彼女も同じで、身体が少し震えていた。だから、そんな心配はいらないんだと、伝わってくる彼女の温もりと想いに応えるように、抱きしめる手に力を込めた……


どれくらい時間が経ったのだろうか、どちらからともなく、ゆっくりと互いから離れていく。
「スミマセン、いきなり……」
首の後ろに手を当て頭を下げる。彼女は、ううん、と首を振ると、「好きだから、いいよ」そう言って照れくさそうにハニかんだ。
その表情を見て、俺は一度、藍色に染まり始めた空を見上げると、パンッと両頬を手のひらで叩いた。
そして、驚いたように目を丸くした宮水さんに、今度こそ勢いだけでなく、ちゃんとした俺の想いを告げる。
「宮水さんが好きです!俺とつき合ってください!!」
お願いします!と伸ばした手。
「私も、立花さんのことが好きです。……よろしくお願いします」
俺の手に彼女の手が重なる。今日何度も繋いだはずなのに、繋がれた手と手の間に、それまでとは違う、確かな結びつきが生まれたような気がした。

手を繋いだまま、互いに嬉しさを隠しきれない表情で、そうしてるうちに、宮水さんの瞳に涙が浮かぶ。
「やだ、嬉しいのに、なんでだろ」
「きっと嬉しいから、ですよ」
「うん……そうやね」
彼女の瞳に浮かんだ、夕闇の中でもキラキラ輝くような雫を人差し指でそっと拭ってあげる。
宮水さんって泣き虫なんだなぁなんて思いながら、そんな自分も、思わず目頭が熱くなって、夜の帳が下りる空を見上げた。
いつの間にか東の空に丸い月。全てが満ち足りたようなその輝きは今の俺達そのものだって、そう思えた……

 

手を繋ぎ、予約していたレストランへと向かう道すがら、宮水さんからの提案。
「私のこと、名前で呼んでくれませんか?」
「名前、ですか?」
「はい」
ダメですか?なんて、初彼女からの初お願いを上目遣いで頼まれれば、嫌なんて絶対言えない。
「じゃあ、えっと、三葉……さん」
「違います」
「えぇっ!?」
彼女の名前を間違えたのか!?なんて困惑してると、彼女は照れた顔をしながら毛先に触れる。
「三葉……です。"さん"付けはダメです」
「え?なんでですか?でも、三葉さん、年上だし」
「そんなに年上扱いしないで下さい。……結構気にしてるんです」
そんな彼女の言葉につい吹き出してしまった。
「も、もうっ!笑わないでください!」
「わかりました、さん付けしません。その代わり、俺のことも名前で呼んで?」
立花"さん"なんて他人行儀じゃなくて、俺だってちゃんと名前を呼んでもらいたい。
「……三葉」
少し照れくさかったけど、彼女を見つめながら名前を呼んだ。
呼ばれた本人は頬を染めながら、コクンと頷くと、
「瀧くん」
小さな声で俺の名を呼ぶ。

「……なんで俺のことは"くん"付けなんすか?」
「これが一番言いやすい気がしたから、ええの!」
「ええの?」
「あ、方言が……」
「なんか、今の可愛いですね」
「もうっ!瀧くん、揶揄わんで!」

出逢えた"これから"を創るために、互いを探し合ってきたのだから。
隣に歩く大切な人と共に、今はまだ何もない真っ白な未来(これから)を二人で描いていこう……

*   *   *

お互い、笑いあって、見つめ合って、そして或ることに思い至ったのか、目を逸らす。

瀧は、口許に手を当て、三葉は、指で唇に触れる。

――キスってどうするんだろう?

to the next stage?(笑)


>なかがき
⑬~⑮告白編です。
当初から告白する場所だけは例の神社でいいよね!と思っていましたが、結果的にルートも良いカタチになりました。
デートの舞台は新宿かな?→とりあえず映画へ→バルト9→近くの新宿御苑へ行くのはありだよね!→四ツ谷へ行くには千駄ヶ谷駅へ、と何となく選んでいきましたが、新宿は瀧くんが、千駄ヶ谷は三葉が"あの日"降り立った駅として結果的に二人に相応しいデートコースになったような気がしてます。

しどろもどろなデートの始まりから、少しずつ二人らしいやり取りができるようになって参りました。とは言えお話的に盛り上げるため、意図的に最初の告白は失敗させて頂きました(ゴメンヨ
"彼氏"と"彼女"の言い間違い、んなことあるのか?と思うかもしれませんが、ド緊張するとあり得ます。ソースは俺(笑)
ラストの告白はやはり君の名は。らしく。ここだけは何となくではなく、記憶戻らない場合の大人の二人の自然な告白として気持ちを伝い合って欲しいと願いました。
両想いになってもまだまだ始まったばかり。これからもアレコレあると思いますし、これから起こっていくアレコレこそが、ふたりが"もうすこしだけ"と望んだことだと思うので、これから一歩ずつ手を取り合って歩んでいって欲しいな、と思ってます。

大きな盛り上がりや拗れ展開は入れずに、なんとなーく平穏な日常感で書いて参りましたが(その影響かダラダラと文字数だけ増えましたが)、やっぱり瀧三の告白シーンは何パターン書いても嬉し楽し大好きなのでした♪
一応、二人の初デートはこれで終わりですが、ほんの少しおまけを添えて〆たいと思います。
今回もお読み頂き、ありがとうございました。