君の名は。SS 瀧三デート話。初デート編⑯&おまけ

>⑯親友たち。

「えー……本日はー、瀧の初彼女ゲットの祝いの席にお集まり頂き、誠にありがとーございましたー」
「なんだよ、その棒読みの冒頭挨拶は」
「まあ、いいだろ。司の奴、お前が無事につき合うことができたって聞いて、すげー喜んでたんだぜ」
「余計なことは言うな、高木」
司にしては珍しく照れ顔をして、眼鏡を真ん中を中指で触れる。
「へいへい。それじゃ、とっとと始めようぜ!」
いつもの親友三人、各々がビールジョッキを手に取る。
「それじゃ」
「かんぱーい!!!」
三人の声が重なり、ジョッキが爽快にぶつかり合う。早速ゴクゴクと飲み始めれば、テーブルの上に半分ほどとなったグラスが置かれていく。
「あ、ありがとな。みつ……あ、いや、宮水さんと付き合えるのは、お前らのアドバイスのおかげだと思ってるよ」
照れくさいのか、視線は上を向いたまま、首の後ろに手を当てて、瀧が礼を述べる。
「別に俺達はお前の持ち味を客観的に言ったまでだ。彼女とつき合えるのはお前自身の力だよ」
「そうそう、別に俺らのアドバイスなんか無くても、瀧は彼女とつき合えてたと思うぜ」
メニュー表に目を落としながら、さも当然のように語る高木に、司も同調するように頷いた。
「それでも、サンキューな、司、高木」
瀧の殊勝な言葉に、二人の親友は笑みを零す。

「まあ、お前の礼なんて酒の肴にもならないからな」
「たっぷり聞かせてもらおうか、どうやって告白したのか、その一部始終をな!」
「えぇ!?マジかよ!?」
「当たり前だ、そのために今日集まったようなもんだ。それに俺はミキさんに事の詳細を報告する義務がある」
「なんだよ!その義務はッ!!」
「わははっ!諦めろよ、瀧」
高木に背中をバンバン叩かれ、瀧は「ったく、お前らなぁ」と口を尖らせるが、すぐに一緒に笑い出した。

*   *   *

「で、彼が私のこと抱きしめて……"すきだ"って」
「おおぅーー♪で?で?彼の告白に三葉はなんて応えたん??」
「えっと……"わたしも"って」
「ひゃあぁ♪、なんかいいわー♪二人とも学生さんみたいに初々しくて可愛いわぁ~♪」
今日は親友、サヤちんが三葉の家に泊まりに来てくれた。その目的は勿論、三葉にできた彼氏について諸々聞き出すためだ。お酒を持ち込み、三葉と瀧の馴れ初めを一から十まで質問攻め。当初は照れて言葉を濁していた三葉も、空き缶が増えるごとに饒舌になっていった……

「悪かったわね!どうせ私は、この年まで彼氏居ませんでしたよー!」
拗ねた表情で、三葉がビール缶に口をつける。
「何言っとるんよ、あんた、大学時代から充分モテとったやないの。何回、告白されてゴメンナサイしてたか」
「だって……瀧くんじゃなかったんやもん。私が好きになるの瀧くんだけなんだもーん」
お酒の力か、彼氏の力か、顔を真っ赤にしながら、三葉は呟く。
「ふふっ、もうわかっとるって。三葉は、その彼のこと、立花くんが大好きなんやもんねー?」
「うん、大好き!」
そう言って、再びビール缶に口をつけ、コクコクと飲みはじめるとそのまま一気に飲み干した。
「サヤちんと一緒に飲むお酒も好きやよ♪」
「それは、ありがと♪」

本当に良かったな……
三葉の表情を見て、サヤちんは心からそう思う。親友が失くしていたものを、その彼は埋めてくれたんだと。
悔しいけど、悲しいけど、自分達では埋めてあげることはできなかった。
理由もハッキリしないけど、心が彷徨い、必死にもがいていた三葉に対して、無力だった。親友のはずなのに……
だけど、こうして、親友の眩しい笑顔が戻ってきたのなら。きっと克彦だって心から喜んでくれるだろう。

「ねえ、サヤちん」
「ん?」
「サヤちんとテッシーのおかげやよ」
「おかげって、何が?」
「上京して、ここまで色々必死やったけど、サヤちんとテッシーが居てくれたから、瀧くんに逢うまで頑張ってこれた。今更って感じでゴメンやけど、ありがとう、サヤちん」
「な、なに言っとるんやさ!三葉は」
サヤちんは立ち上がると、トイレ借りるね、と言って、部屋を出る。
親友に気づかれないように、そっと涙を拭って……

*   *   *

「だからさ、司!三葉は美人で年上なんだけど、結構仕草とか可愛いところもあるって言うか、話し方も気が緩むと方言混じりになって、それがまたいいって言うか」
「あー……なるほどなー」
メニュー表を眺めながら、適当に相槌を打つ司
「で、黒髪ロングが三葉によく似合っててさ!サラサラでいい匂いがするし、って、おい!高木、聞いてるか?」
「おー……聞いてるぞー」
話半分で、イカゲソの唐揚げに手を伸ばす高木
ビールジョッキ片手に彼女の惚気話を繰り返す瀧。司と高木は目を合わせると、表情で会話を始める。
(今の話、何度目だ?)
(いや、もう数えてねぇ。それにしても『年齢=彼女居ない歴』の男が初彼女ゲットするとこんなになってしまうのか?)
司は眼鏡のツルを持ち上げる。
(余程嬉しいんだろう。初デートの話を聞く限り、瀧も相当頑張ったみたいだからな)
(とは言え、これ以上は俺たちがもたないぞ?)
(だな)
(うむ)
このままでは二人とも酒に酔うというより、瀧の話に悪酔いしてしまいそうだ。互いに頷くと、司が話の切り替えに走った。

「ところで、瀧?」
「ん?」
「お前だから敢えて聞くが、彼女とは、どこまで進んだんだ?」
「ど、どこって……」
不意打ちのような突っ込んだ話に、瀧は照れた時のクセ、首の後ろに手を当てた。
「まさか瀧……もう既に!?」
「んな訳ねえだろッ!……まだ付き合い始めたばかりだぞ、俺達」
「でも、興味はあるんだろ?」
「そりゃまあ……って、何言わせんだよっ!」
「とは言え、お前ヘタレなところがあるからなぁ。先々が心配だよなぁ」
揶揄うような高木の言葉に、うるせえよ、と瀧は抗弁する。
「ま、どちらにせよ、彼女と一緒に居る時間を作らなくちゃ、先へ進むことはない訳だ」
司はニヤリと笑うと、
「瀧、お前今から、彼女をデートに誘ってみろよ」と言い放った。

*   *   *

「あー……やっぱりイケメンさんやなぁ」
「"やっぱり"ってなんやさっ!?」
三葉にスマフォを借りたサヤちんが、瀧の写真を見せてもらっていた。
「いや、三葉って何だかんだ言って、イケメン好きやろ?」
「か、顔だけで瀧くん選んだ訳やないよっ!!」
「はいはい。えっと、他の画像は、と」
「ちょっ、あんまり勝手に!」
と、不意にサヤちんの手のあるスマフォが着信音と共に振動を始めた。
「あ、『瀧くん』やって」
「えぇっ!?う、うそ、瀧くん!?」
ディスプレイに表示された名前をサヤちんに読まれるや否や、三葉はあたふたし始める。
「ど、ど、どうしよ、私、酔っぱらっとるし!?」
「じゃあ、このままにしとく?」
「あ、でも、やっぱり瀧くんからの電話は出たいし!」
「じゃあ、出る?」
ほら、と三葉にスマフォを差し出すと、やっぱりどうしよう!?と全くもって埒が明かない。
サヤちんはため息を一つ吐くと、着信ボタンを押してしまった。

『もしもし、三葉?遅くにゴメン』
「えっと、立花くんでいいのかな?」
『えっ!?あ、はい、そうですけど。ええっと……どちら様ですか?』
「ごめんねー、私、三葉の友達なの。今、三葉に代わるからねー」
スマフォを三葉の前に差し出すと、もうっ!と拗ねたように小さくほっぺを膨らませる三葉。
でも、もしもし、と電話を代わるや幸せそうな表情に早変わり。
(本当に彼のこと大好きなんやなぁ……)
サヤちんは微笑ましく親友の電話のやり取りを見守っていた。

*   *   *

「もしもし、三葉?」
『ゴメンね、瀧くん。今日、友達が遊びに来とるんよ』
「あ、それじゃ、また今度掛けなおすよ」
『ううん、サヤちん、あ、友達のあだ名なんやけどね、電話続けてって隣で言っとる』
「そっか……あのさ、俺も実は友達と飲んでて」
『あー、だからなんやね、ちょっと賑やかだなって』
「声、聞こえる?」
『うん、大丈夫やよ』

酒のノリと勢いで本当に電話してしまったが、三葉の声を聞くと、一気に酔いも醒めてくる。
と、親友二人に視線を送れば、ニヤニヤとこちらの状況を楽しそうに眺めていた。
それがなんだか面白くなくて、瀧は一度咳払いする。

「三葉、聞いて……」
『なぁに?瀧くん』
「俺、三葉のこと、大好きだから。これからもずっと大事にする」
『え……』
電話越しの突然の告白に驚いたのか、彼女の無言が続く。不安になった瀧が、会話をどうしようかと思ったその時、
『私も瀧くんが大好き!ずっと一緒居るよ!』
彼女の声が耳に、そして胸に真っ直ぐ届いた。
「……こ、これからもよろしく」
『こちらこそ、末永く宜しくお願いします……』

「店員さぁーん!!ビール大ジョッキ追加ッ!!司ぁ、俺は今日はとことん飲むぞ!!」
「ああ、どこまでもつき合うぞ、高木」
かけがえのない友人の、その嬉しそうな表情を見て、二人は確信する。
やっとあの頃の瀧が戻ってきたんだ、と。

*   *   *

そして、親友たちは心から願う。

「良かったな、瀧」
「ふられるなよ」
「余計なお世話だ!」

「三葉も幸せになるんよ」
「ありがとう、サヤちん」

もう二度と、二人が互いを探し求めることがないように……と。

瀧三デート話。初デート編おしまい。

 


以下おまけになります。

>おまけ①
告白シーンのプロトタイプ的なネタ。記憶なかったら、こんな感じかなーと書いてみたものですね。

>大人瀧三記憶なしでムスばれる話。

神社の階段で再会し、互いの名前を知り合う二人。
それぞれが、長い月日を探し求めていたことを知る。
互いの存在が気になりながら、何故、探していたのか、その理由を探していく二人。
二人で一緒に過ごしていくうちに、それは半ば会うための理由になっていて、純粋に自身が相手に惹かれていることを感じていた。

だけど……
もし自分が相手の探している人じゃなかったら?
探している本当の人が見つかってしまったら?

それを考えると、不安で、どうしても理由を見つけるしかない、そんな想いで二人は理由探しを続ける。
それでも理由は見つからず、再び訪れたあの階段でついに瀧が……

「宮水さんは、何か思い出さないと……ダメですか?」
「え……?」
「俺は……俺は!宮水さんが居てくれれば、それだけでいいっ!」
階段の上、瀧の決意を込めた言葉に、三葉は口許を抑える。
「宮水さんのこと、ずっと探し続けてきた誰かだって信じてます。根拠なんか無くたって、理由なんか見つからなくたって、それでもいいっ!」
瀧はゆっくりと三葉の前に立つ。夕陽が照らす彼の表情は、いつかどこかであった決意の表情。
「もし仮に、探していた本当の人が別にいるんだとしても、もういいんです。だって、俺、宮水さんのことが好きだから!他の人を好きになんてなれません!!」
「立花……さん」
「……俺、年下だけど、宮水さんの探していた人じゃないかもしれないけど……俺と!」

「ごめんなさい……」
「あ……」
キレイな真珠のような涙が、三葉の瞳から零れ落ちていく。それを見た瀧は、その場に立ちすくむしかなかった。
力なく肩を落とす瀧に、三葉は大きく頭を振る。
「違う、違うんです!……ごめん……なさい、立花さんにそこまで言わせて……」
涙を必死に拭いながら、言葉を続ける。
「私、不安で……年上だし、何か理由が、立花さんが探してきた人が私だっていう根拠がなかったら、好きになってくれないんじゃないかって……。もし本当に探していた人が現れたら、私から離れていってしまうんじゃないかって」
宮水三葉さん!」
瀧の声に、三葉の言葉は遮られる。そっと彼女の手を取った彼の瞳はとても優しくて。だから、出逢ったあの日のように、三葉は微笑んだ。
「それ以上、言わないで下さい。俺も同じですから……」
「……似た者同士、やね」
「本当ですね」

見つめ合う中、どちらかともなく、重なった言葉は『すき』の二文字。
だけど、それだけで今までの不安が消し飛ぶように、心にしっかりと刻まれる。

「立花さん、私、あなたに好きになってもらったら、お願いしたいことがあったの」
「なんですか?」
「名前で呼んでくれませんか?」
一瞬、驚いたように目を丸くした後、瀧は彼女にしか見せない優しい表情で微笑む。
「だったら、俺のことも名前で呼んでくれますか?」
「はい、喜んで」

互いに結び合う手と手。もうきっと迷うことはない。
だから、もう一度、あの日出逢った時と同じこの言葉で。

――君の、名前は、

 

>おまけ②
ファーストフード店の大人瀧三を書いたら、同級生版も書きたくなりました(笑)

遠距離恋愛?同級生if

どこにでもありふれたファーストフード店。店内はいつものようにざわついていて。でもそんな喧噪のおかげか、どこか気楽な雰囲気があるのが、こういうお店のいいところだ。
そんな店の二階、窓際のカウンター席に並んだ高校生の男女二人組の姿が……

「あーあ、もっといい所に連れてってくれると思っとったんやけど?」
「いいだろ、マックでも。俺の奢りなんだし」
「……私がここまで来るのに、どれだけ交通費かけてると思っとるん?」
そう言うや大きな口を開けて、てりやきバーガーをパクつく三葉。
「でっけー口」
「んんーー!!」
食べかけ故に、相手の言葉に反論できず、口許を押さえながらもぐもぐと食べ続ける三葉。瀧は素知らぬ顔で、ポテトをひょいひょいと口に運んでいる。
三葉はジュースのカップを手に取り、ストローを咥えると一口、二口と炭酸飲料を吸い込む。漸くすっきりしたといった感じで彼女は隣に座る連れ合いを指さした。
「瀧くんが、ご飯奢るし、たまには東京来いよって誘ってくれたから、わざわざこっち出て来たんやよ!普通はさ……もう少し東京のお洒落なところに連れてってくれるかもって期待するやろ!?」
「糸守にマックねえじゃん」
「ぐっ……そ、それを言われると、その通りなんやけど」
「スナックは二軒あるのにな」
「うるさいなぁ!……あーあ、こんなんだったら来るんやなかったなぁ。お小遣い相当減ってまったし」
三葉は大きなため息を吐くと、今度は小さく口を開けてハンバーガーをパクリと食べる。

「そんなに……イヤだったか?」
「え?」
「こういう店。俺と一緒に来るのイヤだったか?」
「べ、別にイヤっていうか……。瀧くんは、ほら、普段、司くん達とカフェとか行ってるから、そういうお店に行くのかなーって……。あー……まあ考えてみれば、私が勝手に期待してただけなんやけど」
瀧くんに会えたんは嬉しいよ、と彼にも聞こえないくらい小さな声で呟くと、俯き加減でカップのストローを口にする。
「俺さ、三葉と二人きりで来たかったんだよ、マックに」
彼の言葉に三葉は顔を上げると、耳まで真っ赤にしたその横顔。
「私と……?」
瀧は、隣に座る三葉に一瞬視線を送ってから、そのまま少しだけ後ろの方へと振り向く。三葉も釣られるように後ろを振り向くと、フロアには同い年くらいの学生が沢山いる。学生のグループ、仲の良さそうなカップル、みんな和気あいあいと楽しそうだ。

「こうしてるとさ、なんか高校生のデート……っぽいだろ?」
「デー……ト?」
その単語を呟き、意味を深く理解した瞬間、彼女も耳まで真っ赤になる。
「な、なんやさっ!今日ってデートのお誘いやったん!?」
「わ、悪いかよッ!二人きりで会うんだし、普通はそうだと思うだろ!?」
「だ、だって、瀧くん、デートなんて言ってくれんかったし、ただ遊びに来いって意味だと思ってたし」
「遠まわしには言ってただろ!"二人"で遊ぼうぜって!」
「そんな回りくどい言い方じゃ、わからんよ!」
「お前が鈍感なだけだろ!」
「瀧くんやって鈍感やろー!」
窓際のカウンター席で、テニスのラリーのようにテンポよく言い合いする二人。

「ハァ……なんだよ、昨日からドキドキしてたの俺だけかよ」
気が抜けたように天井を仰いだ瀧に、三葉が詰め寄った。
「そ、そんなことない!私だって、昨日はドキドキして全然眠れんかったよ!」
間近で彼を真剣に見つめる三葉。瀧は目を丸くして、その透き通るような純真な瞳に吸い込まれるように見つめ返していた。
「……」
「……」
「ぷっ」
「ふふっ」
にらめっこみたいに、どちらからともなく可笑しくなって笑い合う。
「もうっ、瀧くんってば、」
三葉は、瀧の腕に軽くグーパンを押し当てる。
「言うべきことは、ちゃんと言いなさいよね」
「うるせーよ」
瀧はそんな三葉の手を取ると、カウンターの下で手を繋ぐ。
「夕飯はちゃんとしたところ、連れてってやるつもりだったんだよ」
「そんな時間まで居れるかわからんよ」
「ギリギリまで……一緒に居たい」
「……仕方、ないなぁ」
まんざらでもなさそうに、三葉は彼の手を握り返す。
それが伝わったのか、瀧はスゥと息を吸い込むと、
「お前のこと、好きだから」
「……うん。私も」

ありふれたファーストフード店の、と或る一コマ。

>あとがき
準備中。週一更新のつもりでしたが、バレンタインネタを書いていたら時間が無くなりまして。
可能であれば、おまけをもうひとつくらい追記したいと思います。
一旦これにて。