君の名は。SS 当たり前だからこそ。

瀧三お誕生日おめでとうー!という訳で、今年のお誕生日SSを書いてみました。
初めて過ごす大人瀧三誕生日という感じとなります。宜しくお願いします。



瞳を開いた先、微笑む彼を見つけた。
夢か現か。薄ぼんやりとした淡い感覚の中ではハッキリとわからなかったけど、彼が傍に居てくれるのなら正直どちらでも構わなかった。
ゆっくりと囁くように、
「たき……くん」
ただ愛しい人の名を呼んだだけなのに、それだけで胸の奥がほんのり熱を帯びるのを感じる。
「おはよう、三葉」
彼の手が私の頭に触れ、優しく梳くように髪を二、三度撫でてくれる。そうして耳元から指を差し入れると私は彼の胸元へと抱き寄せられた。
頬に伝わる彼の体温、耳に聴こえる鼓動。私の黒髪を慈しむように再び触れ始めた大きな手を感じながら、私の感覚は徐々に目覚め始める。
「瀧くん、あったかい……」
「三葉もあったかいよ」
セミダブルベッドの中、すこしでも彼にくっつきたくてその逞しい背中へ手を回すと、応えるように抱きしめる彼の腕に力が込められる。
「苦しい?」
「ううん、大丈夫やよ」

彼の温もりに抱かれながら、当たり前になりつつあるこの日常の幸せをかみしめる。
朝、目が覚めると、瀧くんが傍に居てくれる。言葉を交わしてくれる、微笑んでくれる。
肌を触れ合い、心を通わせて。
ずっと探していた。ずっと逢いたかった。
あの日、あの時、並走する電車で君を見つけた。走って出逢って、君の声に応えた。
それからも色んな事があったね……
デートをして、互いに好きって言って、初めてのキス、初めての触れ合い、二人で迎えた初めて朝。
付き合って、お互いを知って、初めてのことばかりだったから、時には喧嘩もしちゃったね。
春から夏、そして秋。
糸守で瀧くんが私を選んでくれたこと、きっと一生忘れない……

「三葉、どうかした?」
「う……ん……なんだか嬉しくて」
見上げた私の目尻を瀧くんが優しく拭ってくれる。
こんな風に思えるのは、きっと今日が特別な日だから。

「三葉、誕生日おめでとう」

東京に来て人生の節目に感じていたのは、止まることのない時の流れ。流れていった歳月を独り受け止め、それでもと、もがき、探し続けていた。
だけど今日は違う。私が生まれ、生きてきた日々を祝福してくれる人がいる。出逢ってくれてありがとうと言ってくれる人がいる。
そして、それは私も同じ。
「瀧くんもやよ。お誕生日おめでとう」
二人で迎える初めての誕生日。
もうすこしだけ一緒にいたい、と願っていた君は、いつしかずっと一緒にいたい一番大切な人になっていた……

*   *   *

できる限り早めに切り上げるつもりだったけど、流石は師走十二月。結局七時を少し回ってから会社を飛び出し、目的の店へと向かう。
今年の二人の誕生日は平日ということもあり、ちゃんとしたお祝いや食事はこの週末に予定してるけど、それでも折角の三葉の誕生日だ。ケーキくらい用意してあげたくて彼女に内緒で予約しておいた。
ケーキ屋の閉店時間を気にするように時計を眺めれば、決して動きを止めない時計の秒針に焦りを感じ、自然と駆け足になっていく。

走りながら思い出すのは、あの日、三葉に出逢った日のこと。
並走する電車で見つけた君を求め、必死に走ってあの場所で俺達は出逢った。
あの時、君に声を掛けられなかったら、俺は今頃どうしていただろうか?
そんな疑問を前に軽く首を振る。
俺達が"出逢わない"なんてことは、ぜったいあり得ないことだから。

クリスマス前だからだろうか、長い冬の夜も街中を光で彩るイルミネーションが夜闇を感じさせない。
ふと視界にふわりと小さな白い羽のようなものが舞い降りた。足を緩め、ゆっくり歩きながら夜空を見上げれば、静かに舞い降りてくる真白な綿雪。
「寒いはずだな」
呟きから零れた白い吐息が、暗く重たい空に向かって浮かんでいき、すぐさま消えていく。
そう言えば、去年の今頃も雪だった気がする。就職活動に追われ、何かを、誰かを探しながらもがく日々。
あの頃は肌に触れる雪の冷たさよりも、朝、目覚めて心の中にあったはずの温もりを失っていく方が余程ツラかった。

赤信号で立ち止まり、久しぶりに自分の手のひらを見つめる。
朝、目覚めると君が居る。
微笑んで、俺の名前を呼んでくれる。
もうすこしだけ、と願っていた。だけどそんな想いは、いつしかこの手のひらだけじゃ収まらなくて、君の全てを求めていた。
特別な君と過ごす毎日がすこしずつ当たり前になっていく。欠けていた月が満ちていくのは当たり前のように。出逢うべき俺達がそうなるのは必然のように……
「みつは……」
ずっと君を探していたんだ。きっと俺達はどこかで出逢っていて、だから君を忘れたくなくて、忘れられなくて、忘れちゃダメだと必死にもがいた道程の先に今の俺達がある。

信号が変わる。横に並んでいた信号待ちの人から一歩遅れるように横断歩道を渡り始める。気持ち早足で、だけど薄く積もり始めた雪に足を取られないように慎重に。
彼女のことを想いながらポケットからスマフォを取り出すと、俺はもう一軒、別の店を探し始めた。

*  *  *

ジュワアァと食欲をそそる音がキッチンに響く。
「うん、こんなもんかな?」
フライパンからほどよく焦げ目のついたハンバーグを取り出すと、そのままそこに各種調味料を足してデミグラスソースの調理を始める。
今日は瀧くんと私の誕生日。同じ日が誕生日なんてなかなか運命的だと思うけど、生憎忙しい社会人にとっては平日はいつもの日常とあまり変わりない。
初めて過ごす二人の誕生祝いは休日に改めてすることにしたけど、自分一人ならまだしも折角の瀧くんの誕生日だ。少しはご馳走を用意してあげたくて、定時で仕事を切り上げ、こっそり準備を進めている。
手作りドレッシングのシーザーサラダ、かぼちゃを裏ごしして作ったスープ。メインにはハンバーグ。あとはデザートをどうしようかな、なんて思っていたら、
「ただいまー」
玄関のドアが開き、瀧くんが帰ってきた。
「おかえりなさーい。瀧くん、結構早かったね」
「ああ、今日は三葉の誕生日だからさ。えっと、これ」
キッチンで向かい合った瀧くんから差し出されたのは、紙製の白い箱。
「なにこれ?」
「ケーキ。やっぱり今日くらい三葉と一緒に食べたくて」
そう言った彼の表情はイタズラっ子みたいな笑顔で、つられて私も表情が緩んでしまう。
「もうっ、瀧くんってば、危うくデザート作ってまうところやったよ」
「デザート?」
「実は私も誕生日っぽい料理を作ってみました」
「お!ハンバーグじゃん!三葉が作ったの美味いんだよなー♪」
キッチンをのぞき込んだ瀧くんが表情を綻ばせてくれる。そんな彼の様子を見れば、私だってやっぱり嬉しい。
「ありがとう♪もう少しでできるでね、着替えて待ってて」
腕まくりした肘を曲げガッツポーズで気合いを入れると、仕上げに向けて私は再びキッチンへと向かう。

「あ、あのさ、三葉」
「なに?瀧くん」
盛り付けをする私に呼び掛ける瀧くんの声。
「実はさ、もう一つあるんだ」
「ん?何が」
振り返った私の目の前に差し出されたのは、一輪の赤い薔薇。
「似合わないことしてるのはわかってるんだけど、その、三葉と出逢って、三葉と過ごす毎日はすげー幸せで、嬉しくて、そんな日々が今は当たり前になって、これからもずっとこんな風に一緒に過ごしていきたいって思ってる」
照れくさいのか、瀧くんは首の後ろに手を当てる。
「だけど三葉に出逢えたこと、こうして一緒に暮らしていること、それは当たり前なんだけど、やっぱり特別なことだから。だから、こういう特別な日にはちゃんと口にしたいと思ったんだ」
首に触れていた手を下ろす。一度ゆっくりと目を閉じ、開いた時にはまっすぐ私だけを瞳に映していた。
「三葉」
「はい……」
「すきだ」
その言葉に思わず視界がぼやける。溢れ出しそうになった涙をとっさに指で拭うと、だ、大丈夫か!?と瀧くんの慌てた声。
「ち、違うんやよ!これはなんかビックリと嬉しくて」
こんなサプライズずるい、なんて思ってしまう。照れくさくて、恥ずかしくて、だけど、やっぱりとってもとっても嬉しくて。
瀧くんと過ごす日々は"当たり前"で、そしてこんなにも"特別"なんだって気づかされる。
「三葉、受け取ってくれる?」
もう一度、差し出された瀧くんの想い。私は小さく頷くと、瀧くんから赤い薔薇を受け取る。
「一輪だけで申し訳ないけど」
「ふふっ、大丈夫やよ。気持ち十分伝わっとるよ」
「そっか」
「うん」
瀧くんは赤い薔薇の花言葉、知ってるのかな?でも、知っていようがいまいが構わない。
彼の想いが込められた一輪の薔薇を包み込むように両手で持つと、私は胸の奥に咲いたあたたかな想いと共に彼に微笑んだ。
「ねえ、瀧くん。私もちゃんと言葉にしたいな」

今日は二人の"特別"な日だから。
この大切な想いを贈り合おう……


>あとがき
毎年、毎年時節ネタを書くのは大変なんやよ;;というのが本音ですが、今回は『当たり前』と『特別』を対比にして書けるかなー?ということで、短いながらもお誕生日ネタを書かせて頂きました。
相変わらず期日には不完全な状態でしか間に合わず、アップが遅れるのは予定調和なのですがッ(ぉぃ
それでも、幸せそうな大人瀧三を書くのは楽しかったです♪瀧&三葉お誕生日おめでとう!!(しあわせになー

立花瀧
誕生日の朝なので、三葉が目覚めた時の一番になりたくて、起きてからずっと彼女の寝顔を見つめていましたが、彼女はなかなか目覚めませんでしたとさ。
珍しく朝揉んでません笑
赤い薔薇の花言葉を知っていたのかわかりませんが、ケーキ渡しながら言うのはちょっと違うよな、と思って花屋に行ったのは彼のファインプレー。
やる時はやるのが瀧くんなんやよ!!(普段しない人がこういうことするのはちょっとズルいと思ってる三葉さん談

宮水三葉
はよ起きない(笑)
序盤は『くっついていようか』の其の四なイメージで。ピローな瀧三好きなんですよね。
ピンクのもこもこパジャマ着てあったかそうなイメージ。
同棲はしてますが、結婚はまだしてませーん(来年です)。でも料理してるところは若奥様をイメージしてました。
瀧くんからもらった薔薇をテーブルに飾って夕飯とケーキを食べてると思います。


>赤い薔薇
花言葉は『あなたを愛してます』とか『愛情』などなど。
調べてみたら本数にも意味があるらしいので、もし宜しければググってみてください。
三葉の高校の同級生が花屋さんになってるから、そこで買ったってことでいいかなーなんて考えてます。

>ハンバーグ
理由:三葉が作るお誕生日ハンバーグはなんか特別っぽい気がしたから。

以上です。最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。