君の名は。SS 君と出逢えた年の瀬に。②

あけましておめでとうございます(遅

 

年が明けても、こちらの世界は年が明けず(笑)

ちょっと苦戦しておりますが、あまり気負わずに書き進めます。

(最後まで書けたらある程度は全体調整もしないといけないと思いつつ……)

 

二人で手分けしての大掃除。窓拭きが終った瀧くんにはお風呂掃除をお願いして、私は寝室へ向かう。
隅々まで掃除機をかけて、棚を一つずつ丁寧に拭いて、ベッドの周りを綺麗に整えると、フカフカのベッドに視線が止まる。

お仕事のない日は、このベッドで瀧くんとのんびり寝て過ごすのが幸せなんやよね~♪

思わずベッドにダイブしてしまいそうな衝動に駆られたけど、ここはぐっと我慢。今日中に大掃除を終わらせなくちゃいけないんだから。
気を取り直してクローゼット中を整理しようとを開けてみれば、目立たないような隅っこに引っ越してから一度も開けずに放置されてたような段ボール箱
足を屈めて覗き込むと、箱の側面にマジックペンで書かれた『たき』って文字が。
「これ、瀧くんに聞いて片付けんとね……」
そう呟いてから、どうしてこんなところに隠すように置いてあるんだろう?という疑問がふと頭をよぎる。
「ハッ!まさか……!?」
もしかしたら私に内緒にしてる、あんなモノやこんなモノがこの中に隠されているんじゃ……!?

そ、そりゃ、瀧くんやって至って正常な成人男子やし?
そういうモノを隠し持っていたとしても、余裕ある年上彼女としては動揺なんてしたりしないし?
で、でもやよ……
私という存在がありながら、そう!昨日だってあんなことやこんなこと(以下略)……なのに、そういうモノを所有してるってちょっとどうかと思うんやよ!
って、結局この中には何が入ってるっていうんやさ!?

好奇心から思わず留めてあるガムテープの端に手をかけようとしたけど、ギリギリのところで慌てて手を引っ込める。
「あ、危なかった……」
いくら瀧くんの彼女だとしても、彼が秘密にしているものを勝手にのぞき見するのはやっぱり良くないよね。
「何か、危ないものでもあったのか?」
「ひゃっ!?」
その声に思わずビクッとして大声を出してしまう。
「おい、大丈夫か?」
「だ、だ、だ、だいじょーぶやよ!!」
立ち上がって振り返れば、目の前には心配そうな表情の瀧くんが。
「本当か?」
「は、はい、大丈夫です。本当です」
「……んなことねぇだろ?」
思わず毛先に触れて誤魔化してみたけど、やっぱり瀧くんにはバレバレみたいで、開けっ放しのクローゼットをのぞき込もうとしてくる。
「だ、ダメやって!」
手で瀧くんを押し返そうとするけど、瀧くんも引かない。ジリジリと私は体ごと押し込まれてしまう。
「瀧くんは、掃除は終わったの!?」
「終わったからこっち来たんだよ。それよりお前、何隠してんだよ……?」
「いや、隠しとるのは瀧くんやろ!」
「は?隠してる?」
とかなんとか言い合ってるうちに、気がつけば私と瀧くんの顔はくっつきそうなくらいの距離になっていて。
「……えっと」
「お、おう……」
「まだ明るいので?」
「そ、掃除もあるしな」
「うん……」
そう言うと漸く瀧くんは一歩下がって会話するのに丁度いいくらいの距離に収まってくれた。

「で、俺が何を隠してるって?」
「……それ」
クローゼットの隅にある段ボール箱を指させば、「ああ、それか」と事も無げな瀧くん。
「別に隠してる訳じゃねえぞ」
そう言って腰を屈めると、その箱を引っ張り出す。
「何となく手許に置いておきたくて、家から持って来たんだけどさ、やっぱり使い道なくて、放置してたんだよ」
ここまであっさり答えられると変なものが入ってるようには思えない。いや、入ってても困るんだけど。
それでもちょっと興味があって屈んだ瀧くんの上から覗き込むように見ていると、おもむろに瀧くんがガムテープを引っぺがした。

開けられた段ボール箱の中は、ぱっと見、統一感もなく雑貨や衣類みたいなものが色々詰め込まれている。
「ふーん……」
「なんでそんな不満そうな声なんだよ」
「え!?あ、いや、なんでもないんやけどねー」
あはは、とあからさまな誤魔化し方だったけど、瀧くんは気にならなかったみたいで、そのまま箱の中に手を突っ込んだ。
「たとえばコレとか?」
「あれ?これ、ウチにも……?」
「だろ?三葉の家にも同じようなのがあってビックリした」
立ちあがった瀧くんが手に持っていたのは青い砂が入った砂時計。私も同じような砂時計を持っていて、今はインテリア代わりに飾っている。
瀧くんと出逢う前は、よく砂時計を見つめながら、刻の流れのままに探していた誰かに想いを馳せていた。
瀧くんも砂時計を見ながら、私のこと想っていてくれてたのかな……?
なんて、そんなことをちょっと期待していたんだけど、「まあ、なんでこれ買ったのか覚えてないんだけどさ」だって。

「……他には何が入っとるの?」
瀧くんの反応がちょっと面白くなくて、彼の横をすり抜けて段ボール箱の前にしゃがみこむ。目についた白い衣類を手に取って広げてみたら、それはTシャツ。胸の部分にロゴみたいなのが入ってる。
「『HALF MOON』……?」
「そのTシャツ、高校の頃のかな?結構気に入ってたんだよ。あ、こっちもそうなんだけどさ、」そう言って、今度は瀧くんは箱の中からグレーのアウターを取り出した。
「すげぇんだぜ。高山(こうざん)の寒さにも耐えられるマウンテンパーカー。サイズが合わなくなって着れなくなったけど、なんかさ……これは大事にしときたくて」
そう言って懐かしそうに呟きながら目の前で広げてくれた。衣擦れの音を聞きながら、私はそれに目を奪われる。見ていると、何だかわからないけど、くすぐったくて、切なくて、愛しさと寂しさをない交ぜにしたような想いが胸の奥に込み上げてくる。
「……三葉?」
反応しない私のことが気になったのか、心配そうに瀧くんが私を呼び掛ける。
「あ、あれ……?」
頬にあたたかいものが伝うのを感じて、指で触れればそこには溢れ出た想いのカタチ。
「ご、ごめんね!別に悲しいとかそういうんじゃなくて」
慌てて両手で頬を拭おうとしたけど、それを遮るように私は抱き締められていた。
「……わかってる。これも二人の欠片なんだな、きっと」
「うん……」
瀧くんに悪いな、と思いながら彼の胸に顔を押し付ける。包み込むような彼の温もりに触れていると、あのパーカーを見た時に感じた寂しさが埋められていく気がした。
何も言わずに優しく髪を撫でてくれる瀧くんに身を委ねながら、いつもよりずっと優しい触れ方が心地よくて……
もしかしたらこの髪型を気にしていた瀧くんも同じ気持ちなのかな?

探し続けていた瀧くんと出逢い、想いを伝えあって、少しずつお互いを理解して、時にはこんな風に欠けた何かを埋め合うように触れ合って。そうして二人、年の瀬を迎えている。
去年の今頃は、独りで探し続けることに精一杯だったのに、今はすぐ傍に君が居て、それだけでこんなにも世界が色づいて。

それはあまりにも幸せすぎるから。
だからほんのちょっとだけ不安に思う。
――この日々を失ってしまったらって。

そんな不安を掻き消すように、間近に見上げて、君の名を呼ぶ。
それ以上の言葉はなくても、カタワレにはちゃんと伝わったみたいに今度は力強く抱きしめられる。決して離さないと言わんばかりに。
耳元で私の名を呼ぶ瀧くんの声に応えるように、遠慮がちに彼の背中に手を回した……

 

 

それから暫くして。お互い照れくさそうに、瀧くんは首の後ろ、私は毛先に触れながらお互い視線を逸らしていたけど、床に落ちていたパーカーに気がついて、私はそれを拾い上げた。
「ねえ、瀧くん?」
「ん?」
「このマウンテンパーカー、もう着ないんでしょ?」
「まあな」
「だったら、私に頂戴?」
「は?いや、これ男もんだぞ。大体この色、三葉には似合わないだろ?サイズだって、」
「わかっとる。でも、きっとあったかいと思うんよ」
お願い、と両手を合わせてお願いすれば、まあ三葉がいいなら、と半ば呆れたような口調で瀧くんは頷く。
「ありがとう♪」
自分でもよくわからない。彼と居ると時折、夕闇と陽の光が混ざり合うような糸守の情景が思い起こされる。彼のマウンテンパーカーをギュッと抱き締めると、そんな情景と共にどこか懐かしい匂いがした……


「ここでいいかな」
瀧くんからもらったマウンテンパーカーをタンスの中に片付けようと、引き出しを開けてスペースを探していると、ふと糸守高校時代の制服が目に留まる。東京生活には必要ないものだったけど、辛い時や寂しい時は心の支えになってくれるような気がして、上京する時に持ってきた。
私は頷くと、制服の隣にパーカーを置く。なんだかこの場所が一番いいような気がして。
「おーい、みつはー」
私の名を呼ぶ声。やけに嬉しい気持ちで胸いっぱいになってタンスを閉める。
「なーに?瀧くーん」
勢いよく立ち上がると愛しい彼の元へと駆けていく……