君の名は。SS 君と出逢えた年の瀬に。①

出逢った年の瀧と三葉のなんてことない年の瀬を書きたいな、と思いまして。

年末までに間に合わせるつもりが、やっぱり無理でした(笑)

連載方式となりますが、年を越えて頑張ります(ぇー

 

2018年は大変お世話になりました。2019年も皆様にとってよい一年になりますように。

 

「瀧くん、手が止まっとるよー?」
「あ、悪ぃ」
年の瀬が迫る十二月三十日。今日は朝から二人で部屋の大掃除をしている。
あの春の陽光に包まれた出逢いから、もう半年以上が経過して、気がつけば季節はもう冬。
そんな巡る日々の中で、私達の関係は少しずつ縮まって、自然と惹き合うように今は一緒に暮らすようになっていた。
長年一人暮らしをしていた小さなアパートじゃ二人で暮らすには手狭だったから、一緒に不動産屋さんを回って。日当たりの良い、新宿のビル群がよく見えるこの部屋をお互い気に入って引っ越してきたのが数カ月前。
部屋にはそれぞれが持ち込んできたものも多いけど、一緒に暮し始めてから揃えたものも少しずつ増え始めて、そういったものを見る度に改めて一緒に暮してるんだなぁなんて実感する。

「もう、なんやさ。さっきからこっちジロジロ見て」
「あー、いや、なんていうか、」
首の後ろに手を当てながら、曖昧な口調の瀧くん。
「もうっ、そんなペースやと年明けちゃうよ?」
年末だけあってここ半月ほどはお互い仕事が怒涛の日々。だから満足に掃除もできなかったけど、せっかく新しい年を迎えるんだから、二人で暮らすこの部屋に感謝して、しっかり大掃除をしておきたい。
……なのに、我が家の窓拭き担当は、雑巾片手に全然仕事が捗っていない。何がそんなに私のことが気になるのか?

「あー!もしかして、この髪型?」
私は自分の髪を指差した。下ろしていたのでは掃除する時に邪魔になりそうだからと今日は髪をまとめている。姿見を前に結っていたら、ふと高校の頃を思い出して、懐かしむように三つ編みを作り後ろで纏める髪型にしてみたのだ。
「そう云えば、これ見た時、瀧くん何か言いたげだったもんね」
そりゃ高校時代の髪型ですし?若作りで似合ってなかったかもしれないけど、それならそれで何も言わずにジロジロ見るような真似はやめて欲しい。
「変だったらやめる」そう言って組紐に指をかけた途端、瀧くんが猛烈な勢いで駆け寄ってきた。
「違う!違うって!!変とかそういうんじゃなくて!」
「えー、じゃあ、なんなんやさ?」
「その……なんつうか、その髪型見てると妙に気になるというか、懐かしいというか」
頭を掻きながら自分でもよくわからないといった様子の瀧くん。"懐かしい"と言われても、私はこの髪型を瀧くんの前でしたことは今までない。だとしたら?
「瀧くんの昔の彼女がこんな髪型してたとか?」
「む、昔の彼女なんていねえよ!」
「ふふっ、冗談やって」
ムキになる瀧くんの様子がおかしくて、思わず笑ってしまった。

何となくわかってはいるのだ。きっとこの髪型も、瀧くんにとって"欠けた何か"なんだろうと。
私と瀧くんは、ずっとお互いを探し続けていて、今年ようやく出逢えた。
どうして憑りつかれるようにそんな気持ちを抱いていたのか、こうして一緒に暮すようになった今でもその理由はわからない。
ただ、あの彗星の落ちた日から、私と瀧くんは"まだ出逢ったことのない"お互いを想い続けて生きてきた。それだけは彼と糸守を訪れた時に出した、二人だけの"真実"。
見たこともないはずの私の髪型を気にしていることも、きっとその真実に繋がる何かなんだろう。

「じゃあ、変やない?この髪型」
「ああ、結構いいと思うよ。なんかさ、若々しく見える」
瀧くんの言葉に思わず大きくため息を吐くと、え?といった不思議そうな表情の瀧くん。
「それ、あんまり褒め言葉になっとらんよ?」
「そ、そうか?」
まったく、私の大好きな瀧くんは真っすぐで一生懸命な頑張り屋さんだけど、彼女を褒めるのちょっと下手すぎませんか?
「いや、本当にさ!……か、可愛いと思うぞ!」
「……本当?」
「本当だって」
「じゃあ、暫くこの髪型続けようかな?」
「あ、それは……どちらかと言うと、いつもの髪型の方が好きだな、うん」
本当に瀧くんってば、嘘がつけない正直者。込み上げてきた笑いが抑えきれずに口許に手を当てる。
「もうっ!今日は大掃除なんやからこの髪型でええの。瀧くんも自分の分担しっかり頑張ってよね」