君の名は。SS 高校生同級生if クリスマス・イヴ(要修正)

半日で作った。年末ネタは!?(笑)

そちらもこれから続き書きます……

 

いつかちゃんと手直ししますので、現状はこれで御勘弁を。

要するに糸守駅で瀧くんを待つ三葉を書きたかっただけなんです……(ぇー

 

「年末年始、羽目を外し過ぎないように。それじゃ、これで終礼を終わる」
『起立、礼』の声と共に一気に教室がザワつく。今日は12月24日で終業式。お昼上がりのクリスマスイヴ、冬休みに入ったことと、クリスマス気分で自然と気分が高揚していく。
かくいう俺もチラリと腕時計の時間を確認すると鞄に荷物をまとめると、ソワソワした気分で席を立ち上がる。

「たきー、これからカフェでも行かね?」
「ランチでもいいぞ」
「ラーメンでもいいけどな。腹減ったことだし」
肩を叩かれ振り返れば、ニヤニヤした高木と明らかに口許が緩んいるを司の姿。
「お前らな……」
「それともカラオケにでも行くか?」
「いや、ここは奥寺先輩も誘って、」
二人がわかってて言ってるってことはわかっている。たが、今日はそれにつき合ってやれるほどあまり時間はない。
「悪い。今日どうしても会いたいやつがいるんだ」
自分で思ってたよりもしっかりした声で。だからだろうか、司と高木も目を丸くして顔を見合わせると、今度は優しい口調で、
「気をつけてけよ」
「がんばれよな」
なんて声を掛けてくれた。

「戻ったら連絡するからさ、そん時はまたカフェで集まろうぜ!」
「おう!」
「早く行け、瀧」
二人に背中を押されるように、教室を飛び出す。いつの間にか早足は駆け足に変わっていて。乗る予定の新幹線は変わらないのに、それでも走ることで一分でも早くアイツに出会えるような気がした。

*   *   *

今日は終業式。特にこれといった授業がある訳じゃないからそんなに困らないけど、それでもいつも以上に心ここにあらずといった感じで、私は頬杖をつきながら窓の外を眺めている。
一時は色鮮やかだった糸守の山々も12月下旬ともなれば、くすんだ色で覆われて。鈍色の空と合わさって、この時期の糸守町はどこか寂しい雰囲気を漂わせる。
「雪、降ってきそうやね」
「予報では夕方から雪らしいぞ」
「あ、テッシー、サヤちん……」
いつの間にか横に立っていた幼馴染に気がついて、私は頬杖を崩す。
「どうしたんよ?ボーっとして。」
「昨日、夜更かしでもしとったんか?」
「ううん、なんでもないよ。帰ろっか」
通学鞄に荷物を入れると、席を立ち上がる。

今日は12月24日。瀧くんと出会って初めてのクリスマスイヴ。
瀧くんから会いに行こうか?なんて言われて、とっても嬉しくって本当は会いたかったけど、言葉として出たのは『無理しなくてええよ』だった。
いくら瀧くんはバイトしてるとはいえ、交通費だってかかるし、こっちの宿泊代だって馬鹿にならない。
私なんかの為に……なんてことを考えてしまうのだ。電話だけじゃ、メールだけじゃなくて、本当は会って話がしたいって思ってるのに。

「無理なんかしてねえよ」
「あ、でも、こっちは冬は天候荒れると大変やし……もう少しあったかくなったらね」

素直になれないのと同時に、少しだけ怖くもあるのだ。この幸せな日々はいつまで続けられるのだろうか、と。
瀧くんと付き合い始めて、瀧くんを好きになって、初めての気持ちがいっぱいでこんなに嬉しいことはなくて。
でも思うのだ。いつか瀧くんが私から離れていってしまうんじゃないかって。

遠距離恋愛で、神社の跡取りで、このまま東京にも行けずに糸守で過ごしていく……

この町には何もない。そんな所に瀧くんだって縛られたくないだろう。
将来のことまで考えるなんて馬鹿げたことだってことくらい十分にわかってる。だけど、私が恋をするということは、やっぱりどこか糸守や、宮水に縛られてしまう。そんなことに最近改めて気づかされたような気がするのだ。

「なあなあ、カフェでホットコーヒーでも飲んで行かない?」
瀧くんとテッシー、サヤちんが作り上げたバス停そばの糸守カフェ。最初はなにこれ?なんて思ったもんだけど、少しでも私が息抜きができるように、と一生懸命作ってくれたことは、今はちゃんとわかっている。
「そろそろカフェも冬季休業になるかもしれんしなー。いつか小屋風にして全天候型に改良するんが、俺らの目標や!」
「あんた、それ、ますます許可が必要になるんやないの??」
幼馴染のやり取りはどこか気を紛らわせてくれて。私たちは教室を後にした。

*   *   *

家に戻って、糸守に向かう準備をする。
「一泊……いや、こっちより寒そうだから一応多めに持っていくか」
引っ張り出してきたキャリーバッグに荷物を詰め込んで。いくら糸守がド田舎とは言え、最悪お金さえあれば同じ日本だ、なんとかなるだろう。
「……なるよな?」
一抹の不安を抱えつつも、俺は準備を整えて、テーブルの上に書置きを残す。

>三葉に会いに行ってくる。連絡は定期的に入れるから、心配しないでくれ。瀧

「よし、行くか!」
気合いを入れるように、拳を握りしめる。

三葉に好きだって告白したのは二ヶ月ほど前。一応OKは貰えたはずだけど、遠距離恋愛のせいで、やり取りはもっぱら電話かメール。
だから、丁度冬休みに入るし、クリスマスに会いたいって言えば、三葉は喜んでくれると思ったのに。

『無理しなくてええよ』
「無理なんかしてねえよ」
『あ、でも、こっちは冬は天候荒れると大変やし……もう少しあったかくなったらね』

なんだよ、俺に会いたくねえのかよ。
そう言い掛けて、俺は口をつぐむ。
俺達は遠距離で、すぐ傍にいてやれなくて、いざって時、お前の助けになってやれなくて……
三葉に俺は何をしてやれてるんだろう?そんなことを考えてしまって、「わかったよ、また今度な」そう言って会話が途切れてしまった。

それから数日、自分なりに考えてみた。俺が三葉にできることはなんだろうって。
で、出せた答えは『何もない』だった。高校生で、お金もバイトで稼いだ分しかなくて、親に養ってもらっていて、権力や権限がある訳でもない。
ただ、まあ、その、なんだ……

結局、俺は三葉が好きなのだ。ただ三葉に会いたいのだ。あいつの顔を見ながら、どうでもいい会話をして、笑い合いたいだけなのだ。
自分勝手な考えかもしれないけど、あいつも俺と同じ気持ちなんだと願って……

だから、こうして三葉に会いに行くために、俺は東京駅から東海道新幹線に乗り込む。窓側の自由席に座りながら、ここまで内緒にしている三葉に連絡をするかどうか迷って、ポケットからスマフォを取り出す。
と、そこには悪友たちからのメッセージが。

>男になって来い!

>瀧は今日、大人の階段を上るんだな……

「人の気も知らねえで……」
三葉に連絡する気分じゃなくなって、俺はそのままスマフォを仕舞う。
糸守に着くまで数時間。三葉に会えるまでもう少し。急に行ったらやっぱり迷惑かな、なんて少し不安に思いながら、その不安から目を背けるように、リクライニングを少し下げると俺は目を瞑った。

*   *   *

「お姉ちゃーん、今日の夕飯なぁに?」
菜箸片手に油が張った鍋を眺めていると、四葉が声を掛けてきた。
「今日は唐揚げやよ。一応クリスマスやからね」
「やった!唐揚げ好きー!」
「油がはねるからあっち行ってない」
「はーい!」
揚げ油の温度が頃合いのなったことを見計って、下味をつけた鳥もも肉を入れていく。ジュワアァー……と台所に響き出した音が何だか食欲をそそる。
こんがりきつね色になった唐揚げを一つずつ取り出して、油を切っていく。そんなことを何度か繰り返していくと、
「ちょっと作り過ぎてまったかな?」
山盛りの鳥からが完成。まあ、残ったら明日の朝にでも回せばいいか。
サラダと我が家にはいつも外せないお味噌汁を用意すれば、タイミングよくご飯が炊きあがってこれで夕飯が完成。
クリスマスっぽさにはちょっと物足りないけど、まあチキンがあるから良しとしよう。

瀧くんと出逢った頃は、まだこの時間はカタワレ時と言える夕暮れだったけど、冬のこの時期はもう辺りは真っ暗で。
ふと台所から窓の外を見れば、何か白いものが視界に入った。
「あ。雪や……」
昼間テッシーが言ってたとおり、雪が降り出してきた。ふんわりと舞い降りる綿雪は、降り方もまばらでこれならそれほど積もることもないだろう。
「雪のお正月とかだけは、勘弁して欲しいんやけどね」
宮水神社が一年で最も忙しくなる初詣の時期だけは、雪は降らないで欲しいと心底願ってしまう。
「お正月も瀧くんには会えんなぁ……」
家業とは言え、折角の冬休みでも私は瀧くんに何もしてあげられそうにない。私なんかが瀧くんの彼女で本当にいいんだろうか?そんなことをつい考えてしまう。
「考えすぎはいかんよね!」
パンパンと頬を叩いて気を取り直す。折角のクリスマスだ。瀧くんには会えないけど、後で電話をしよう!

*   *   *

「すげぇ、雪だ……」
山間を特急電車がひた走る。すっかり冷めてしまった缶コーヒーを一気に飲み干すと、俺は身を乗り出して窓の外を眺める。
東京だって雪は降るし、特段珍しいものではないけど、夕闇の中で際限なく降り続ける雪は、真っ暗な中でもその白さが際立っていて、見ているだけで吸い込まれてしまいそうな気分になる。

東京を発ってから数時間。予定では間もなく高山に到着するはず。ただ、ここに来てちょっと不安の方が大きくなっている。
思ってた以上に"夜"なのだ。いや、夜になるってことくらいわかってた。だけど、東京と違って、こっちは灯りが乏しくて、こんな夜更けに三葉に会いたいなんて、アイツにとって迷惑でしかないんじゃないかって、そんな不安がさっきから頭をよぎっている。
スマフォを取り出す。今日は高山で一旦降りて、宿を探して、明日、三葉に会いに行くでもいいのかもしれない。
今日はクリスマスイヴだけど、明日だってクリスマスだ。別にイヴにこだわらなくたって……

そんな時、スマフォのブルルッと震えだす。表示されたのは『宮水 三葉』の名前。
ドキッとして、車内だからどうしようかと思ったけど、意を決して席を立ち上がる。デッキに向かう途中、着信ボタンを押せば『もしもし瀧くん?』って三葉の声が耳に届く。

その声を聞いて素直にこう思った。
やっぱり三葉に会いたいって。

「もしもし。あ、ちょっと待って。今、デッキに移動するから」

*   *   *

夕飯を終えて、自分の部屋で一息つくと、早速瀧くんに電話をしてみた。
暫くコールが続いたけど、慌てたように瀧くん出た。

『もしもし、俺。あ、ちょっと待って。今、デッキに移動するから』
「デッキ?」
デッキってなんやっけ?と思う。それになんだか瀧くんの声が聞きとりづらい。
「今、外におるの?電話マズイんやったらまた後にするけど……」
『いや、大丈夫、もうちょっと待って』
「うん……」
なんだかバタバタしている瀧くんからの返事を待つように、何気なく机の上の砂時計に触れて、ひっくり返してみた。
サラサラと流れだす砂に見とれていると再び瀧くんから声。
『あ、お待たせ。……あ、あのさ、三葉。俺、今、糸守向かってて』
「ふーん、糸守かぁ……は?いともりぃ!?」
思わず座っていた椅子から立ち上がる。
『ちなみにもうすぐ高山に着く予定』
「え?ちょっ!何でこっち向かっとんの?瀧くん!!」
『何でって……お前に会いたかったから』
その言葉に何も言えなくなってしまった。

瀧くんから『会いたい』って言われて心から喜んでる自分が居る。本音の本音はやっぱり瀧くんに会いたいんだ。
だけど、だったらなんで私は初めから『会いに来て』と言えなかったのか。瀧くんの気持ちに任せっぱなしで、自分に素直になれないままで……

『おーい三葉ぁ、聞こえるかー?』
「ゴメン……瀧くん」
『……なんで謝んだよ』
「だって……」
『……俺が傍に居ない時に泣くなよ。慰めてやれねえだろ』
グスッと鼻を鳴らす。彼に何て言っていいのかよくわらかない。嬉しさと申し訳なさが入り混じった涙が頬を伝う。
『なあ、三葉』
「……うん」
やっとのことで声を出して、瀧くんの声に応える。
『クリスマスイヴはさ、サンタが欲しいものを持ってきてくれるんだろ?』
「うん、そうやよ……」
『だったら、三葉と会える時間、俺にくれないかな?』
瀧くんの優しい声が胸に中をあったかくしてくれる。今日はクリスマスイヴだから。だったら私だって少しは我儘を言ってもいいのかな?

「なら、私も瀧くんと会える時間、望んでもええかな?」

*   *   *

通話を切って、揺れる車内デッキの壁に寄りかかる。
「遠距離って大変だよな……」
いつも会える訳じゃない。会うためにはこうして何時間もかけて移動しなくてはいけない。
だけど、改めて思う。俺はやっぱり三葉が好きなのだ。
三葉の笑顔が見れれば、苦労なんてどこかに吹き飛んでしまうのだ。
まあ、結局のところ……

「三葉に惚れてるんだよな」

首の後ろに手を当てて。まんざらでもない台詞を呟く。
糸守まであと少し。雪降る山間の町でアイツが待っていてくれる……

*   *   *

「瀧くんが来るから迎えに行ってくる!!」

説明もそこそこに家を飛び出した。
瀧くんが会いに来てくれる!居ても立っても居られずに糸守駅に向かう。
雪降る町を滑りそうになりながら、転ばないように、傘をさして駆け抜ける。到着までまだ時間はある。だけど、じっとなんかしてられない。

「……なんだ、私ってば馬鹿みたい」

走りながら笑ってしまう。
瀧くんのことになるとこんなに思い切ったことができる。そんな私は入れ替わってた日々のように、自分らしく生き生きとしてると思うのだ。
遠距離恋愛とか、宮水のことや糸守のこと、将来の悩みなんて今はどうでもいい。瀧くんと会えるなら、今はそれだけでいいんだと思う。
だって。私は……

「瀧くんが大好きなんだから」

*   *   *

音もなく静かに降る雪が、小さな無人駅を白く包み込む。
駅のささやかな灯りが、一人ホームに立つ少女を舞台のように映し出している。
少女は傘をさしたまま、ジッと動かずに、でも幸せそうに微笑んでいて。

そんな彼女への合図のように、どこからか音が聞こえると、遠くに光が浮かんでくる。
「あ……来た」
少女は毛先に触れてから一歩踏み出す。

今日はクリスマスイヴ。

きっと願いが叶う日……