君の名は。SS 運命の朝。

年末ネタを書いてるのですが、『髪型』でアレコレありまして、ちょっと考察的幕間SSを。

再演の朝。朝おっ〇い満喫後の(笑)瀧くんです。

1千字程度ですが、宜しくお願い致します。

 

ひとしきり泣いて、ひとしきり揉んで、三葉が生きているという事実にどこかホッと一安心していたけど、それはまだ早いということに改めて気づく。
「まだ、入れ替われただけなんだよな」
秘めた決意と共に布団から立ち上がる。
アイツに会いたかった。それは今も変わっていない。だけど、今はそれ以上に望んでいることがある。

三葉を助けたい。生きていて欲しい。
テッシーを、サヤちんを、四葉を、祖母ちゃんを、糸守のみんなを助けたい。
これは彗星のことを知る俺にしかできないこと。
「ぜったい、死なせるもんか」
決意の言葉は三葉の声で。会ったこともないのに、どこか傍にアイツが居て、俺の背中を押してくれるような気がした。


入れ替わりから一カ月。随分と着慣れてしまった女子高生の制服に着替えようと、壁際に架けられた制服に近づこうとして今更ながらに違和感に気づいた。
眉をひそめて首周りに手を当てれば、

……ない。

耳周りを、後頭部を、そして最後に確かめるように毛先に触れる。指に触れた柔らかい黒髪は変わらない。だけど、
「やっぱ、短くなってるよな……」
気を取り直して制服を手に取り、姿見に向かう。
そこに三葉は居た。ちゃんと居た。だけど、見慣れたアイツの顔じゃなくて、髪は肩より上でバッサリと切られていて、目許もさっき俺が泣いてしまったことを差し引いても、随分腫れぼったくなってる気がした。

「長い髪、似合ってたのにな。勿体ねぇ……」
理由はよくわからない。口噛み酒を飲み、三葉の人生を少し垣間見た時に、祖母ちゃんに頼んで髪を切ってもらってるアイツの姿を見た。どこか寂しそうで、今にも泣き崩れそうな表情で、耐えるように口許をギュッと結んで。
刹那、胸の奥に軽く痛みが走る。この痛みは、俺のものなのか、それともアイツの身体に宿ったものなのか……
「元気出せよな。俺、ちゃんとやるからさ」
きっとそうすることが"三葉に会いたい"に繋がるような気がするから。

下着姿をジロジロ見る訳にはいかないから、姿見から振り返って着替え始めると、部屋の中に差し込んだ眩しい朝日に目を細める。
着替えを終えて窓を開ければ、少し冷気を伴った朝の秋風が部屋の中へと吹き込んできた。短くなったとは言え、それでも男の俺よりは随分と長いアイツの黒髪がゆっくり揺れて頬を撫でる。
視界に広がるのは糸守町の全景。彗星が落ち、姿を変えてしまう前の郷愁にも似た今は無き原風景。
「一度くらいアイツと、この景色を一緒に見てみたかったかな……」

二〇一三年十月四日。俺はもう一度だけ三葉と入れ替わった。
変えられないものはあるのだとしても、変えられるものだってきっとある。
だから、これを最後にもう二度と"入れ替わり"は起こらないのだとしても……

胸に手を当てる。手のひらにトクトクとアイツの鼓動を感じる。

「みつは……」

いつか俺が必ず会いにいくから――