君の名は。SS カウントダウン

正月休みに実家に帰省していた私は、今、東京へと向かう新幹線の中にいる。
いつものように窓際の席、田舎町から大都会東京へ、流れる景色を眺めながら、ふと記憶を巡らせる。
 
朧げな記憶の中、いつか決意を込めて上京した時、
ぜったい探しているものが見つかると、希望をもって進学のため上京した時、
それでも望みが叶わずに、何度も挫けそうになりながらも、それでもこうして東京への街並みが見えてくる度に、私は決意を新たにしていた。
 
――ぜったい逢える、って

今は?
そうだね、今は違う。一駅、一駅通過する度に心が踊る。
だって、もうすぐ君に会えるから。

時計を見る、新幹線の到着時間まであと少し。
居ても立ってもいられなくて、早々に荷物を持ってデッキへと移動する。
見慣れた風景に思わず口許が緩む。この街で私は一人じゃない、今はあなたと一緒に暮らす街だから。 

時速200キロを超えるスピードを誇る新幹線も徐々にスピードを落とし、待ちわびた東京駅のホームへとしっかり定時に到着する。
一番先にホームに降り立ち、足早にエスカレーターへ。 それでも改札まで降りれば、流石は東京、人混みで混雑していた。
でもね、
 
「三葉!」

ほら、君は私がどこに居たって、すぐに見つけてくれる。

「瀧くん!」

大きく手を振って改札を抜けると、彼に駆け寄る。

「あー……あけましておめでとう、かな?」
「もう、電話で言っただろ?」
「そうなんやけどね」
私は瀧くんにギュッと抱きついて背中に手を回す。
「ふふっ、今年、初瀧くんや♪」
「お前な……」
ちょっと呆れたように、でもしっかりと瀧くんは私を抱きしめてくれた。
 
人が行き交う駅の構内。やっぱり照れくさくて、名残惜しいけど、そっと彼から離れる。
「寂しかった?」
「別に……」
「本当に?」
下から覗き込むようにそう言えば、やっぱり彼は首の後ろに手を当てる。
「少しだけな」
「それは瀧くんにとっては"すごく寂しかった"って意味でええかな?」
「うるせー」
瀧くんはこっちを見ないまま、私の手を取る。いつもよりちょっと強めに握られた瀧くんの手は、やっぱり温かくて帰ってきたんだなって思う。
「お帰り……三葉」
短い言葉だったけど、瀧くんの想いが伝わってくる。
「ただいま、瀧くん」
その手を握り返しながら、私は今年最初のとびきりの笑顔を向ける。
やっと見つけた私の居るべき場所。きっと今年も素敵な一年になるに違いない。
だって、君が傍に居てくれるんだから……