君の名は。SS 6歳差幼馴染瀧三

しのさんから了解頂きましたので公開致します。

『瀧と三葉が幼馴染で6歳差だったら』という設定です。初めて聞いた時はなんて恐ろしい設定だろうと……笑

年の差を倍にすると切なさしかありませんね;;

if系、『瀧くん→三葉』で、続きそうで続き書けてませんが、宜しくお願いします。

 

「あ、瀧くんやぁ♪」
「え?」
バイトからの帰り道、名前を呼ばれて振り返れば、見慣れたお姉さんが大きく手を振ってこちらに駆け寄って来た。
「瀧くん、いっしょに帰ろー」
「三葉姉……もしかして酔ってる?」
「酔ってなんかいないよー」
彼女の名前は宮水三葉、俺が小さい頃から知っているお姉さんみたいな人。
今年から社会人として働いていて、今日は飲み会かなんかの帰りらしい。
陽気にニコニコしながら、いちいち動作が大袈裟なところなんか絶対酔ってると思う。
だけど、三葉姉は美人だから、変な男なんかに絡まれないようにと、俺が守ってやるつもりで、頷いた。
「家まで送るよ」
「わーい♪瀧くんと一緒や~♪」

いつもの家までの帰り道。バイト帰りの夜道は何も考えず、たまにスマフォをいじったりしながら歩いて帰る道。
だけど、今日は少しだけ緊張していた。彼女が隣を歩いているから。
ちょっと酔っぱらっているとは言え、彼女の長い黒髪はどこか大人のいい匂いがして。
チラリと視線を向ければ、その横顔は同級生の女子とは違う色っぽさがあった。
「瀧くん、この酔っ払いがーとか思ってるでしょー?」
「そんなこと思ってませんよ」
「うそだー、だって、さっきからチラチラ私のこと見とるもん。呆れてるんやろぉ」
「まあ、ちょっと酔ってるなーとは思ってるんで、家までは責任持って送りますよ」
「それはありがと♪それにしても、瀧くんさ、」
そう言うと、三葉姉は俺の顔をのぞき込んできた。
「こんな遅い時間まで何してたん?」
彼女の吐息はやっぱりお酒の匂いがしたけど、そんなこと気にならないくらい、近づいたその顔にドキンと心臓が高鳴る。
「な、何って……バイトっすよ」
何とか平静を装って応えれば、バンバンと背中を叩かれる。
「おっ、勤労少年!えらいぞー!」
「なんすか、勤労少年って」
「バイトしてお小遣い稼いで、あ、なるほど、彼女とのデート資金とか?」
三葉姉のその言葉に胸が少し痛む。下唇を軽く噛むと、俺は彼女から視線を逸らすように前を向く。
「……そんなんじゃ、ありませんよ。彼女とかそういうの興味ないし」
「えーうそやー」
「なんで嘘なんすか」
「だって、瀧くん高校生やろ?そんな青春真っただ中で、女の子に興味ないとか、それは健全な男子高校生としては絶対間違ってるよー?」
「いいんですよ、俺は」
敢えて会話を途切れさせたくて、言葉少なに答える。

興味がない訳じゃない。ずっと好きな人はいる。だけど、その人へは想いはきっと届かないから。
届けたくて、届けたくてずっと見つめ続けてきたけど、だけど、どんなに想っても、努力をしても、縮まらない距離はあるから……

「あーあ、瀧くんも思春期に突入しちゃったんやね。ちっちゃい頃は三葉ねえちゃーんって言いながらくっついて来たのになぁ」
ふふっと昔を懐かしむように三葉姉は笑う。
「あっという間に、私より背が大きくなっちゃって、あの頃はこーんなに小さかったのに」
胸の高さくらいで手の平を水平にして、子供の頃の俺を思い出しているようだ。
「やめて下さいよ、もう高校なんすから」

いつまでも縮まらない距離。それは彼女との年の差。
優しい近所のお姉さんだった。優しくて、明るくて、面白くて、俺は一人っ子だったから、憧れのお姉さんのつもりだった。
だけど、気がついたら好きになっていた。小さい頃によくある初恋というやつだ。
俺にとっては、一番近くて、そして遠い存在だった。
三葉姉に認められたくて、勉強とかスポーツに一生懸命取り組んだ。
中学の頃は、バスケットボールで結構いいところまで行った。正直強豪校からスカウトがきたこともある。
だけど、その頃に気がついた。

三葉姉は、俺を男としては見てはくれないことに。

どんなに懸命に自分を磨いても、彼女にとっては俺は『6つ年下』の男の子で、弟みたいな存在なんだと。

三葉姉は綺麗だから彼氏がいたことも知っている。今だって付き合ってる人がいることも……
初恋は実らない。だから諦めればいいんだと、何度も思った。
だけど、俺は三葉姉のことがどうしても諦められなくて……

「たーきくん?」
「え?」
「もうっ、ボーっとして。大丈夫?疲れてるんやないの?」
「いや、大丈夫っす。本当……」
すぐ傍にいるのに、決して届かない存在。いっそ届かないのなら、ここで玉砕するのも手かもしれない。
そんなことが急に心をよぎった。だけど、
「……無理だな」
小さく呟く。わかってる。そんなことができるのならとっくにしている。それができないから、片想いのまま。
「何か言った?」
「なんでもないですよ」
フゥと息を吐いて夜空を見上げる。家まであと少し、せめてこうしていられる時間を少しでも。

「ねえ、瀧くん?」
「はい?」
「誰か好きな人、いるの?」
不意にそう言った三葉姉が立ち止まった。
「……なんすか、急に」
一歩先へと進んでいた俺は、彼女の方へと身体を向ける。
「なんとなく?瀧くん、辛そうだったから」
「辛くなんて……ないですよ」
急に胸の奥を思いきり掴まれたようにうまく声が出ない。絞り出すように何とか答える。
「相談だったら乗るよ?これでも瀧くんより年上だし、人生経験だってそれなりにあるんだから」
「嫌……です」
「もう遠慮しなくてもいいじゃない、お姉さんに言ってみなさいって」

耐えられなかった。

「え?」

思わず彼女を抱きしめていた。

「瀧……くん」

何を言っていいのかわからなくて、ただ力強く抱きしめていた。

「ごめん……」

一言、彼女の耳元で呟く。

「うん……」

トントンと三葉姉は俺の背中を叩いてくれた。
昔とおんなじ、優しくていい匂いのする、俺の大好きな人。

どれくらい時間が経ったのか、それともそれほど時間は経っていないのか、全くわからないまま、くらくらするような頭で、俺は彼女から離れる。

「ごめん……嫌かもしれないけど、家までは送るから」
「大丈夫……お願い、するね」

それから互いに無言で並んで歩く。
手を伸ばせば届く距離に彼女はいるのに、俺にとってはどこまでも遠い存在になってしまった。
そんな気がして、拳を力いっぱい握り締めた……