君の名は。SS 言の葉は世界に留まる。
消えていく……
砂時計の零れ落ちる砂のように、ゆっくり、ゆっくりと。
失っていくんだと自覚できていることが、かえってこの世界の残酷さを際立たせる。
別に見返りを求めていた訳じゃない。
アイツに逢うために来た。
助けるために来た。
ただ、生きていて欲しかった。
それだけだ、それだけなんだ……
でも、俺はどこか甘く考えていたのかもしれない。
懸命にもがいた先にある、物語の結末はハッピーエンドだって。
無事に成し遂げたら、俺はもう一度、アイツに逢いに行って、今度こそ入れ替わってた時みたいにお互い言いたいことを言い合って。
一緒にカフェに行くのもいいかもしれない。今度はちゃんとデートプラン準備して臨むから……
勝手にそう信じてたんだ。
俺達には、そんな笑い合ってる未来が待ってるってさ。
なあ、ちゃんとやり遂げたのか?
みんな無事なのか?
生きてるよな、生きててくれるよな……?
山頂に吹く風はどこまでも冷たくて、吹き抜ける度に俺に残っている大切な記憶をどこかに連れ去っていく。
煌々と瞬く星々は、大宇宙の時間の流れの中では些細なことだと諭すかのように、どこまでも美しい。
君の名前、君の声、君の笑顔、この手にあった温もり、みんなみんな消えていく……
残っているのは、寂しさだけ。
なあ、せめて教えてくれよ。
お前、生きてるんだよな。死んでなんかいないよな。
せめて、そうだとすれば、俺は生きていけるから。
お前が世界のどこにいたって、逢いに行くから……
そうして、何か糸が切れたように、俺はその場に倒れ込む。
力が出ない。
ただ、目を閉じて、そのうち、なぜ寂しいのかもわからなくなっていく……
夢を見る。
目の前に女の子が立っている。
どこか田舎町の、単線の踏切横。肩より少し上で切り揃えられた黒髪に、赤いリボンのようなものをちょうちょ結びにして。
大きな瞳、すらりとした華奢な体、見たことない学校の制服のスカートが風に揺れる。
制服姿の俺は思わずその子に手を伸ばす。
目の前にいるのに、何故かどうしても届かない気がして。
なあ……君は、誰だ?
その子は言った。
ありがとうって。
なんのことだ?って首を傾げれば、
生きてるよ。
そう言って彼女はハニかんだ。
その言葉を聞いて俺は思わず空を見上げる。夕焼け空を横切るいつか見た彗星。それがすぐにぼやけて見えた。
なぜかわからない。ただ心から安堵している自分がいる。
目を腕で拭って、その子に笑いかけた。
良かったなって……
その子は言う。
良くないよって。
なんで?
だって、まだ君に言ってないから。
なにを?
決まってるじゃない。
――だいすき!!
大きな声でその子は言った。
知らない子のはずなのに、俺は間違いなくこう思ったんだ。
なんだよ、俺たち、相思相愛じゃねえか……って。
何故かその子のことを覚えてはいられないってわかっているのに、
その子のことをぜったい忘れないって、そう信じられた……
目を開く。俺はもう一度だけ立ち上がる。
世界は何も変わらない。だけど、俺だって変わらない。
忘れていく?ふざけんなよ!
頭に残らないなら、この目に、この手に、足に、指先に、どこだっていい。
君への想いは忘れない。これだけはぜったい離さない。
もっともがけというのなら、いくらでも、もがいてやる。
誰でもない、君のために。
まだ会ったことのない君を探し続けよう。
その時は、俺の方から声をかけるからさ……
この世界にケンカを売るような気持ちで、名前も知らない君に向けて、大声で気持ちをぶつける。
――すきだ!!って