君の名は。SS 口噛み酒=キス

しのさんの「口噛み酒を飲む=キス」イラストにズギューン☆ときまして、此方の勝手ながらイメージしたSSを書かせて頂きました(多謝

あのイラスト、浴衣三葉ってところがイメージを湧きたたせますね;;

ウチの浴衣三葉っぽくなってしまいましたが、口噛み酒を擬人化して未来に繋げてるイメージです。

宜しくお願いします。

 

大地を引き裂くような大きな音が響き渡り、それと同時にプツリと小さな音と共に、何か大切な繋がりが途切れたような気がした。
そこからはよくわからない。ただ、漂うように、夢を見るように、私は瞼を閉じたまま、眠り続けている。
目覚める時が来るのかわからない。このまま眠り続けるのかもしれない。
ただ、言えることは、私ひとりでは、目を覚ますことはできないということ。

まるで子供の頃、お母さんが読んでくれた絵本の眠り姫のよう。
そんなことを思いながら、それでも私は目を閉じたまま、独り静かに眠り続けていた……

そして、その日は突然訪れた。
抱きかかえられる身体、誰かに身を委ねたまま、久方ぶりに触れた温もりに私は漸く目を開く。

「時間が……ズレてた?」

視界に入ったのは、おない年くらいの男の子。
力ないまま抱きかかえられていると、その子は何かよくわからないことを呟いた。

えっと……誰やっけ?
意志の強そうな瞳に、凛々しい眉、その眉にかかるくらいの髪の毛はとても濡れていて、吐く息は白い。
この人、知ってる……
大事な人、忘れたくなかった人、会いたかった人。
えっと、えっと……

靄がかかる頭の中から、懸命にこの人の名前を見つけ出そうと必死になっていると、

「ムスビ」

その人はそう呟いた。

……え?ムスビのこと知ってるの……?
この人は一体誰なんだろう?彼に抱かれながらも不思議とイヤな気持ちにはならなくて。
なんだかあったかいな、と思いながらただ彼のことを見つめ続ける。

「本当に時間が戻るなら、もう一度だけ」

と、唐突に彼に口づけされた。

……な

……なっ!?

……な、なに!いきなりキスしとるのっ!!瀧くん!!

立ち上がって瀧くんに、喰ってかかる。
瀧くんに会いたいって思っとったけど、こんなこと突然していいなんて!!

あ……

そうして、一瞬触れた唇に手を当てながら思い出す。
彼は瀧くん。立花瀧くん。
私は三葉。宮水三葉

私と入れ替わってた人。会いたかった人。そして……もう会えない人。
目の前にいる彼に手を伸ばすけど、伸ばした手のひらは彼の頬をすり抜けた。
ここは幽世。それともあの世とこの世の狭間のようなところなのかな?
だって、あの日、あの時、私は……

初めて触れた唇から彼の想いが伝わってくる。
入れ替わりは三年ズレていた。瀧くんもそれに気づかずに私に会いに来てくれた。
だけど、私は……死んでいて。
それでも、もう一度って。もう一度だけ入れ替わることができたらって、必死にここまで……

瀧くん、ゴメンね。
私が死んでいたって知ってショックだったよね。
入れ替わりが終ったなら、そのままいつもの君の生活に戻れば良かったのに……
なんで君はここまでしてくれるの?
私はもう死んじゃってるんだよ……
だからもう……いいんだよ。

――お前に会いに来たんだ

瀧くんがそう言った気がした。

本当にこの男は……
バカみたい。本当にバカみたい。
たったそれだけのために、私に会うためだけにって。

あの日、ひとり上京した日を思い出す。
会えたけど、逢えなくて。叶わなかった願い。
だから、せめて瀧くんの願いは叶えてあげたくて、私はもう一度、私(三葉)自身との繋がりを願う。
私は三葉の半分だけど、もう半分は瀧くんが埋めてくれればきっと繋がる。彼に託した組紐に手を触れて、ムスビの先を指し示す。

そうして、私と瀧くんは三葉(私)の人生を垣間見る。

生まれて、成長して、お父さん、お母さん、四葉、お祖母ちゃん……
瀧くんとの入れ替わり、彼への大切な想い。気づけなくて傷ついて。
そして、あの日、星が降った日……

「三葉、そこに居ちゃダメだ!」

「三葉、彗星が落ちる前に町から逃げるんだ!」

「三葉、逃げろ!三葉!三葉!!」

懸命に私に呼び掛ける瀧くんの声。思わず、自分の最期に目を逸らす。

「みつはぁーーーー!!!」

彼の必死な叫びは決して届かない。涙ぐみながら、そんな瀧くんの横顔を見つめる。
悲痛な眼差しでその光景を見つめる彼に思わず涙が零れる。

ごめん、ごめんね……

だけど、瀧くんは歯を食いしばって、拳を握りしめて、決して諦めないって、瞳はもう前だけを向いていた。

「絶対に……死なせるもんか」

そう呟いた瀧くんに、改めて気づかされる。
入れ替わりの日々。お互いケンカしながら、それでも惹かれていったこと。
東京に行ったこと。誰?お前って言われて傷ついたこと。
でも、あれは瀧くんが私を知る前だったこと。
そうして、今、ここまで来てくれたこと。
そして、未来を繋げようとしてくれてること。

ムスビ。よりあつまって形を作り、捻じれて絡まって、時には戻って、途切れ、また繋がる。
途切れたものが繋がれば結び目ができて、元通りという訳にはいかないだろうけど、未来はきっと繋がる。
だから……

未来の三葉には悪いと思ったけど、触れられないなら許してくれるかな?

瀧くんの唇にそっと触れるように重ねると、両手で彼の背中を押し出す。

ねえ、瀧くん?

彼は私に気づかずに前(未来)だけ見て進んでいく。どこまでもまっすぐな彼の背中を見つめながら、私は微笑んだ。

私ね、君を好きになって本当に良かった……